恋の毒
 だけど、何食わぬ顔で会話を続ける。


「賑やかなのも、好きだよ。笑っていると、当然楽しいからね。でも、その時間が楽しければ楽しいほど、喪失感みたいなものも大きくて。だから、静かに時が過ぎていくのも、結構好き」


 私にはない感性で、適当な相槌を打つことしかできなかった。


『小説を通して、自分とは違う考え方に触れて、周りの人をわかろうとすればいいんだ』


 ふと、高城君の言葉を思い出した。


 私は本を読んでいろいろな考え方を身につけたつもりだったけど、やっぱり、実際の世界は広がってはいなくて。


 こうして、誰かと会話をすることで広がる世界もあるのだと、初めて知った。


 この世界の広がり方は、嫌いじゃない。


「高城君にも、ここみたいな静かなお気に入り場所があるの?」


 私から質問したことで、高城君はさっきよりも混乱した表情になる。


 それがおかしくて、つい笑ってしまった。


「なんで笑うの」
「随分と素直に反応して、可愛いなあと思って」


 私の言葉に不満があるのは、顔を見ればわかった。


 顔を見れば感情がわかるなんて、本当にあるのね、なんて思いながら秋桜畑に視線を移す。


 私の小説は、私自身が表情をあまり動かさないから、どんなときにどんな顔をするのかを想像できなくて、結局暗い話になっている。
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