交際0日ですが、鴛鴦の契りを結びます ~クールな旦那様と愛妻契約~


「ほんとにもう、小梅ったらいつの間にこんなイケメンを捕まえて〜。それに、あの深山グループの社長様なんでしょう?お若いのに凄いわ。 本当にいいんでしょうかねぇ、こんなボロい定食屋の娘で…」

「お母さん…! 恥ずかしいから変なこと言わないでよ!」

お座敷で木目のテーブルを挟んだ向こう側で母が頬に手をやり本気で心配そうにする。
私が小声でたしなめると、隣で深山さんが優しげな声色で言った。

「私が小梅さんと知り合ったきっかけが、古嵐定食の食事でした。暖かくて、大切な人と過ごす時間のような安心感を与えてくれる。そんなお店を作ったご両親の愛情を受けた小梅さんは思いやりがあり、私は彼女の気遣いにとても支えられているんです」

事実を組み合わせながら、詰まることなくすらすらと出てくる褒め言葉は、私の実家に結婚の挨拶をしに来たこの日のために特に打ち合わせをしたわけではない。深山さんの即興で、やはり適応能力の高さに驚く。

「深山さん……いや、一織くん」

そこで、それまで黙っていた父が腕を組んだまま顔を上げた。
普段はわりと楽観的な父の珍しく寡黙な感じに緊張が走る。

「はい」

深山さんはいっそう姿勢を良くして父を見つめる。

「嬉しいこと言ってくれるなぁ…、おっちょこちょいで慌ただしいんで迷惑かけることもあると思うが、娘をどうかよろしく頼むよ」

やたら神妙な空気を漂わせていると思っていたら、泣くのを我慢していたせいらしい。
涙ぐみながら頭を下げる父を見て、なんだか鼻の奥がツンとしてくる。

「はい。小梅さんを、必ず幸せにします」

深山さんが微笑む。今日は彼の笑顔をたくさん見れた気がする。
私の両親の手前、意識した笑顔もあるのかもしれないけれど、スーツをビシッと決めてきてくれたり、その格好なのに美しい正座で父の私の子どもの頃の話に付き合ってくれたりと、そんな些細なことが私には嬉しかった。

私、この人と家族になるんだ。

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