交際0日ですが、鴛鴦の契りを結びます ~クールな旦那様と愛妻契約~
私の強い意志を感じたのか、彼はしばらく私を見つめたあと口を開く。
が、言葉よりも前に聞こえたのは、随分正直なお腹の音だった。
「…会社に戻ってからと思っていたので、昼を食べ損ねているんです」
控えめな、それでいて確かに聞こえた自分のお腹の音に、彼は目を逸らして言い訳するように呟いた。少しだけ耳が赤く見えるのは、気のせいではないだろう。
先程からあまり感情の変化を表に出さなかった彼の素直な反応を見て、思わず笑いがこぼれる。
「うちはこう見えて定食屋なんです。でもこの通り、今日は客足がまったくで。仕込んだ分の行先に困っていたところなので、お弁当にして差し上げましょうか」
ここまで一息に喋ってしまい、男性が私をじっと見つめているのに気づいて口をつぐむ。
「すみません、余計なお世話でしたね」
恥ずかしさから肩を竦めて声を小さくすると、ここまで1度も動くことのなかった彼の頬が、ほんのわずかに緩んだ。
「昼食をどうしようかと考えていたところでした。もし良ければ、是非頂きたいです」
「あ、ありがとうございます!」
「礼を言うのはこちらの方ですよ。タオルに傘に、お弁当まで。本当にありがとう」
表情はやっぱり分かりにくかったけれど、この数分で声は幾分か柔らかくなったな、と思った。
嬉々として即席お弁当を作っていると、男性が声をかける。
「このお店は、台風にも負けずに営業しているんですね」
「うーん。というより、少しでも売上を伸ばしたいと言いますか」
ずっと私ばかり喋っていたから、彼の方から話を振られたのが珍しくてつい素直に答えてしまう。
ハッとして、苦笑いで誤魔化す。
「ごめんなさい、忘れてください」
「古嵐定食…なるほど、そうか」
彼はお店のメニューをちらりと見やり、静かに呟いた。
「はい、お弁当と傘です。サービスなので、お代は要りませんからね」
「いや、そこまでしてもらうのは…」
「じゃあお礼として、暇があれば今度は営業中にお越しください。暖かい食事をしに」
にこりと微笑むと、彼は困ったな、というような顔をして頷いた。
「気をつけてくださいね」
「ありがとうございました。…近いうちに、また」
彼は傘を片手に、また雨の中を歩いて行った。
あの人が来てくれるかは分からないけれど、また会えたらいいな、と心のどこかで思った。
が、言葉よりも前に聞こえたのは、随分正直なお腹の音だった。
「…会社に戻ってからと思っていたので、昼を食べ損ねているんです」
控えめな、それでいて確かに聞こえた自分のお腹の音に、彼は目を逸らして言い訳するように呟いた。少しだけ耳が赤く見えるのは、気のせいではないだろう。
先程からあまり感情の変化を表に出さなかった彼の素直な反応を見て、思わず笑いがこぼれる。
「うちはこう見えて定食屋なんです。でもこの通り、今日は客足がまったくで。仕込んだ分の行先に困っていたところなので、お弁当にして差し上げましょうか」
ここまで一息に喋ってしまい、男性が私をじっと見つめているのに気づいて口をつぐむ。
「すみません、余計なお世話でしたね」
恥ずかしさから肩を竦めて声を小さくすると、ここまで1度も動くことのなかった彼の頬が、ほんのわずかに緩んだ。
「昼食をどうしようかと考えていたところでした。もし良ければ、是非頂きたいです」
「あ、ありがとうございます!」
「礼を言うのはこちらの方ですよ。タオルに傘に、お弁当まで。本当にありがとう」
表情はやっぱり分かりにくかったけれど、この数分で声は幾分か柔らかくなったな、と思った。
嬉々として即席お弁当を作っていると、男性が声をかける。
「このお店は、台風にも負けずに営業しているんですね」
「うーん。というより、少しでも売上を伸ばしたいと言いますか」
ずっと私ばかり喋っていたから、彼の方から話を振られたのが珍しくてつい素直に答えてしまう。
ハッとして、苦笑いで誤魔化す。
「ごめんなさい、忘れてください」
「古嵐定食…なるほど、そうか」
彼はお店のメニューをちらりと見やり、静かに呟いた。
「はい、お弁当と傘です。サービスなので、お代は要りませんからね」
「いや、そこまでしてもらうのは…」
「じゃあお礼として、暇があれば今度は営業中にお越しください。暖かい食事をしに」
にこりと微笑むと、彼は困ったな、というような顔をして頷いた。
「気をつけてくださいね」
「ありがとうございました。…近いうちに、また」
彼は傘を片手に、また雨の中を歩いて行った。
あの人が来てくれるかは分からないけれど、また会えたらいいな、と心のどこかで思った。