交際0日ですが、鴛鴦の契りを結びます ~クールな旦那様と愛妻契約~


キラキラと雫が太陽を反射し、地面をじりじりと焼くようなこの景色は台風一過特有だなと思う。
少し雨漏りをした程度で台風の被害は済み、倒壊したりしなくて良かったと両親と共に心から安堵した。
雨漏りも治すお金がないのだから、建物が無くなったりしたら両親の夢は簡単に崩れてしまう。

そんなギリギリのところを保ちながら、古嵐定食は今日もそれなりにお客さんで賑わった。
午前11時からの営業で、サラリーマンやOLの休憩と重なるお昼時をピークに段々と客足が落ち着くと、夕方1度店を閉めて夜の準備をする。
17時に再開すると、今度は仕事帰りの働く人たちや家族連れが多くなる。21時半には閉店だ。

「小梅は明日仕事だろう? 店の方はもういいから、戻って休みなさい」

洗い物をしていると、父がレジ締めを終えて厨房に入ってくる。

「じゃあお言葉に甘えて、先に休ませてもらいまーす」

「今日も手伝ってくれてありがとうね」

母の言葉に「お父さんもお母さんもお疲れ様」と声をかけ、暖簾だけ仕舞っていこうと店の入口から外に出た。
『営業中』の小さな看板を裏っ返しに置き直したところで、後ろから低い声が聞こえた。

「どうやら来るのが遅かったみたいですね」

聞いたことがある声に、まさかと思って振り返る。

そこにはあの台風の日の男性がいた。手には傘を持っている。
あの日貸した傘だろうか。風邪はひかなかったみたいで良かった。そういえば、お弁当は食べてくれたかな。
頭の中をいくつも言葉が巡ったけれど、慌てて質問の答えを絞り出す。

「あ、は、はい! すみません、21時半で終わりなんです」

「そうなんですね。やっぱり昼時に抜け出してくるんだったな」

「いえ、そんな。本当にまた来てくださるなんて、それだけで嬉しいです!」

彼の表情が少しだけ緩んだ気がした。
また会えるとは思わなかった。この前は雨に濡れて萎れていた髪も今日は綺麗に整っている。
月明かりに照らされる男性が、いっそう格好よく見えた。

「弁当、とても美味しかったです。 それと、傘を」

彼は端的に告げ、傘を手渡す。

「ありがとうございます、…って、これ新品じゃないですか!?」

「また俺みたいに傘を忘れたお客さん用に、店に置いておいてください」

ただの忘れ物の傘なのだし、そもそも返してもらうつもりもなかったのに。
お礼に食べに来てと言った私の言葉通り来てくれたし、傘1本にも気遣いが乗せられた彼の心に触れて、じんわりと心が暖かくなる。
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