交際0日ですが、鴛鴦の契りを結びます ~クールな旦那様と愛妻契約~
部屋に着いて、重たい空気を先に切ったのは一織さんだった。
「小梅」
鋭く光る黒い瞳が私を捉える。
「小梅は、俺のことが好きなんじゃなかったのか」
え、えぇ!?
な、なんでバレて…って、いや、ここはまず肯定するべき…?
ぐるぐると頭をフル回転させていたら、とん、と軽く肩を押されて壁に追いやられる。
「一織さ、」
「…知らない男が小梅に触れてるのを見て、腹が立って仕方なかった」
え、それって…嫉妬、してくれたってこと…?
「おまえに触れていいのは俺だけなのに。…あの男のことが好きなのか?」
近すぎる距離に、情熱的な瞳で見つめられて動けないでいたら、ふに、と唇を指でなぞられる。
「…ち、ちがいます。戸川くんは、高校の同級生で、転びそうになった私を助けてくれただけで。…彼には、告白されたことがあるけれど、お断りしています」
一織さんがぐっと眉間に皺を寄せる。
私は眉を下げて、彼の頬に手を伸ばした。
「聞いて、一織さん。私が好きなのは、ひとりだけ。人生で初めて人を好きになったの。…あなたが、私の初恋なんです」
「小梅」
「だから、そんなに不安そうにしないで」
「…俺のことだけ、見ていてほしいんだ」
唇に触れた柔らかい感触に、ぎゅっと目を瞑る。急なことで驚いているはずなのに、すぐに離れてしまったそれを追いかけてまた欲しかっている自分がいる。
キス…私のファーストキスが、旦那様に奪われた。