交際0日ですが、鴛鴦の契りを結びます ~クールな旦那様と愛妻契約~
「…つまり、利害が一致するから結婚をしよう、と」
私たちは場所を移して、公園のベンチに並んで腰を下ろしていた。
そこで聞いた深山さんの話は、私には程遠い世界に思えた。
彼が提案したのは互いに利益のある結婚。いわば契約的な結婚だった。
古嵐食堂を全面的に支援すること。抱えている借金を肩代わりし、店が落ち着くまで多方面からサポートをすると彼は言う。
一方深山さん側のいちばんのメリットは、妻帯者になるということ。
社長職に就いていると、何かと結婚を急かされるらしい。今まで親戚という親戚から数多の見合いを勧められたものの、そもそも乗り気ではないのに加え持ち前の無愛想さでうまくいくものもいかず、断ったり断られたりを繰り返してきたという。
そんな中で出会ったのが私…らしいのだけど…
「どうして私、なんでしょうか。深山さんが、わざわざ私を選ぶ理由がわかりません」
深山さんは私を見て言う。
「それは…、あなたの、笑顔に惹かれたからです」
ん…?今、なんか変な間があったような。気のせい?
彼は1度視線を落として、それから私に向き直り、続ける。
「今まで、俺にアプローチをしてくる女性は、皆御曹司というステータスが目的でした。なんというか、疲れていたんです。腹の探り合いみたいなものに。…でも、小梅さんとは、雨宿りをしに来たサラリーマンとして出会った」
なるほど。モテてきたわけだ。だけど、恋というよりは羨望、嫉妬、妬み…あまり嬉しくない含みのある想いに嫌気がさしていたということだろうか。
「俺の正体を知らない小梅さんの、純粋で素直な笑顔が嬉しかったんです」
そんなふうに言われたら、恥ずかしくてしかたない。かああと顔が熱くなるのを感じて、彼の瞳を見れなかった。
「俺との結婚について、考えてみてほしい」
深山さんは真剣な声色で言う。
…私に結婚の予定はない。それどころか、恋愛経験がほとんどないのだ。
そんな私が、交際もすっ飛ばしていきなり結婚なんてできるのだろうか。
しかも相手は大企業の社長。財閥の御曹司だ。お店のため、お金のために生半可な気持ちで決められることじゃない。
「…分かりました。3日間ください。3日後、お返事をします」
いきなり結婚なんて、どうかしていると冷静な自分と、メリットが大きい上に、深山さんの不器用な優しさに惹かれそうになる思いがせめぎ合っていた。