交際0日ですが、鴛鴦の契りを結びます ~クールな旦那様と愛妻契約~

プロポーズの策略 side 一織




「だから、考えてほしい。俺との結婚について」

言いながら、俺は自分の必死さに驚いていた。
だが俺はどうしても、古嵐小梅との関係を作りたかったのだ。

彼女は3日後に返事をすると、真剣な眼差しで俺に言った。





『古嵐家に何かあった時、助けになりなさい。それが私からおまえにやる最後の役目だ、一織』

そんな話を、祖父から何度聞かされたことだろう。

俺の祖父は、深山グループがまだほんの小さな商店だった大正時代に始まって以来の剛腕を持った社長だった。

両親はその子会社の社長と副社長を担っており、ほぼ会社に住んでいるようなもので、家にはほとんど帰らない人たちだった。
寝る時はひとり、朝起きると食事の用意がしてあり、親はもう出勤している。

それが当たり前だと思っていた子ども時代は寂しいと泣きつくこともなく、今思えば随分と可愛げのない子どもだ。俺は両親よりも、祖父と過ごす時間のほうが長かった。

祖父が自分の後を継がせるために俺に経営について教えはじめたのはいつだったか。初めは呪文や暗号でも唱えられているのかと脳が受け入れるのを拒否していたのが、いつの間にか理解するようになり、それを楽しいと感じるようになった。

祖父が俺に話すことといえば、ベタベタに惚れていた祖母のことか、仕事のこと、それと古嵐家のことだった。

祖父がまだ二十代のころのことだ。祖父もまた幼い頃からスパルタ的に後継として育てられていたが、ある時限界が来た。
自分の未来が決められているという圧迫感と重圧に耐えられなかったらしい。
フラフラと当時住んでいた家を出て、父親から逃げるように無心で彷徨ううちに、肉体的にも精神的にも押しつぶされて倒れてしまった。
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