図書館の彼
その日の図書館からの帰り道。
ひとりで家までの道を歩いていると、急に視界が真っ暗になって意識を失った。
目が覚めた時には知らない場所で手足を拘束されていて、更に同じ状態の馨さんが隣にいた。
「やっと目が覚めた?」
知らない男が部屋に入ってくる。
「……ここはどこですか?」
「とある実験施設だよ。」
「彼女をどうするつもりですか。」
馨さんが怖い顔で男にたずねる。
「記憶を消すつもりだよ。
丁度試したい薬があったんだ。まあまだ誰にも試したことないから、うっかり死ぬかもだけど。」
「そんな薬を彼女に使わせるわけにはいかない……!」
「そんなこと言っても君には何も出来ないよ。
血が枯渇してる吸血鬼なんて、人間と変わらない。」
「吸血鬼……?」
「あぁ、知らなかったよね。どうせすぐ忘れるだろうし、記憶を消す前に教えてあげるよ。
こいつは吸血鬼。言葉通り血を吸って生きてる存在。
こいつの血には傷を癒す力があって、それを使って不老不死の研究をしてるのが、この施設。
血が十分に足りていれば様々な能力を使えるらしいけど、ギリギリ生きられる程度しか与えてない。
だから何も怖くないよ。安心して。」
あの注射の痕はあれだけ血を抜かれていたって事だったんだ。
「最低ですね。」
「最低?どこが?
人間にとって脅威でしかない存在を抑えている上、不老不死っていう夢みたいなものを現実のものにしようとしてるんだよ?
英雄と呼ばれても、最低と言われる筋合いはないね。」
「ただの本好きが人間にとって脅威になるはずがありませんけど。」
「それは俺たちが少量の血しか与えてないからだよ。
十分な血を与えれば何するかわからない。」
「その言葉、フラグっていうんですよ。」
「はぁ?フラグ?なんだ、それ。」
「まぁいい、薬を……」と言いながら男が後ろをむいた隙に、小声で馨さんに声をかける。
「馨さん。私の血を飲めばここから逃げられますか?」
「それは可能だと思いますが……。」
「では変な薬を飲まされて死にたくは無いので、お願いします、私の血を飲んで一緒に逃げてください。
あ、でも、死なない程度に抑えていただけると幸いです。」
少し考えたような顔をしたあと、頷いた。
「……わかりました。痛かったらすみません。」
馨さんの顔が近づいてきて、ガッと首筋を噛まれる。
「……いっ。」
想像以上に痛くはなかったのに、うっかり声を上げてしまって、男が振り返る。
「おい、お前ら何して……!!」
「何って、吸血鬼が吸血してるだけですよ。」
「このクソ野郎……!」
蹴られる!と思ったけど、いつの間に手の拘束を解いたのか馨さんの手が男の足を掴み、そのまま男をぶん投げる。
「結束バンドは……?」
「引きちぎりました。咲依さんのおかげで、今ならそこそこの人間には負けないと思います。
さあ、早くここから逃げましょう。」
「はい!」