図書館の彼



「あの、どこに逃げましょうか。」


「よかったら咲依さんの家にお邪魔させてくれませんか?
あいつらが咲依さんの家を知っていれば、ご家族が危険に晒される可能性もあります。」


「そうですね。では一旦うちに。」


足の拘束を解いてもらって、やっと立ち上がったと思うと、立ちくらみがする。


「大丈夫ですか?
すみません。加減しましたが、もしかしたら頂きすぎたかもしれません……。」


「大丈夫ですよ。」


「ちょっと失礼します。」


馨さんは私を抱き抱える。


「えっ?」


「危ないのでしっかり掴まっててくださいね。」


馨さんは研究員だと思わしき人たちの必死の阻止を躱しながら、走って研究所を抜け出す。

そんなに大きなところでもないから、割とすぐに外に出られた。


「追いつかれてもまずいので、ちょっと飛びますね。」


どういうことか聞くまでもなく、馨さんの背中に羽が生えて宙に浮く。

そしてそのまま結構なスピードで、さっき伝えたうちの家の方向まで飛んでいく。


結束バンドを引きちぎったのも結構すごいなと思ったけど、これはもはや衝撃的すぎて声が出ない……。


「大丈夫ですか?気分悪くなったりとか……。」


「大丈夫です。」


馨さんの片翼は私を守るように風や塵から守ってくれている。

こんな細かい配慮までしてくる吸血鬼が人間の脅威なわけがない。


「この辺で降りましょうか。」


人目の少ないところで馨さんはそっと降り立つ。
そこからはふたりで歩いて私の家に向かう。


「ありがとうございます。」


「いえ。こちらこそ、巻き込んですみません。」


「馨さんは悪くないじゃないですか。」


「そうですかね。」


「そうですよ。
でも吸血鬼って本当にいるんですね。」


「そうですね。年々減っているらしく、多分もうそんなに存在しないと思いますが。」


「あ、そうだ。血を吸われた相手も吸血鬼になるっていうのは…?」


「あぁ、それはないので大丈夫です。」


「よかった。
…そういえば馨さん、聞きたいことがあったんですけど。」


「なんでしょう?」


「昔、私とあったことありますか?」


「……思い出してくれたんですか。」


「やっぱり馨さんだったんですね。
さっきの話を聞いたからわかります。あの時、馨さんは血を分けてくれたんですね、きっと。」


「…はい。
目の前で小さい女の子が倒れてて、僕もまだ幼かったので慌てて飲ませてしまって。
後にも先にもあの時だけで、傷が治るという認識しかないのですが、大丈夫でしたか?体に異常があったりとか。」


「ないですよ。
むしろ、全然怪我をしなくなりました。」


「それならよかったです。」


「馨さんは優しいですね。」


「そうですか?」


「はい。」


「今までろくに人と関わってこなかったので、ちょっとよく分からないんです。
変なところがあれば教えてください。」


「わかりました。
あ、私の家そこです。」


「よかった。誰も追ってきてないようですね。」


「入りましょうか。」


「お邪魔します。」


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