図書館の彼
「僕が咲依さんに会ったのは、両親が亡くなった日でした。
僕はその日たまたま遊びに出ていて、帰ったら両親が倒れていました。状況がのみこめない僕をあの男は捕まえ、それ以来自由に出歩くことはありませんでした。」
「ありきたりな言葉ですが、本当にひどい人ですね、あの男。」
「本当に。」
「そういえば、なぜ図書館には来られたんですか?」
「僕が勉強をしたいとお願いしたらあの男、その辺の本や資料をくれたんです。それで文字を読む楽しさを知って、もっと読みたいと伝えたら、図書館へ行くのを許可してくれました。
まあ、たまたまあの男の身内が図書館で働いていたってだけなんですけど。」
「そうだったんですね。」
「研究さえ進めばあとはどうでもいいって感じでしたね。
まあ僕がいない今、その研究も進まなくなりましたが。
あ、そうだ。さっき噛んだところ、大丈夫ですか?」
「あ、はい。なぜかすぐ塞がりましたよ。」
「よかった。
おそらく僕の唾液が原因だと思います。
血だけでなく、唾液や涙でもある程度の効果はあるらしいので。」
「すごいですね。」
「そうですか?
自分にとってはあまり良いものだと感じたことがなかったので、そんなふうに思ったことはありませんでした。」
「すごいですよ。
私、頭に傷ひとつ残ってないし。普通はあの高さから落ちて、生きてるのはもちろん、軽傷なのもありえないって先生に言われてました。」
「僕が役に立てたようでよかったです。」
「役に立つどころの話じゃないですよ。
命の恩人です。」
「それをいうと、咲依さんこそ僕の恩人ですよ。
咲依さんのおかげでこうやって今あの研究所から抜け出せた。」
お互い謙遜し合ってるのがなんだかおかしくて、顔を見合わせて笑った。
「これからどうするんですか?」
「何も考えてなくて……。
ここで生きていくにしても、血を提供してくれる場がなければ難しいので、吸血鬼が多く住んでいるらしい土地に行くのもいいかなって。」
「……そうですか。」
せっかく仲良くなれたのに。
「あぁでも、ちゃんと咲依さんに危険はないって分かってから行くので、安心してください。」
そこを心配してたわけじゃないんだけど……。
「はい。」
その日は、適当な理由をつけて馨さんには泊まってもらった。
そして翌日、少しだけ私の血を分けてくれないかとお願いされたのでそれに応じると、ほんとに少しだけ吸血して、どこかへ出かけてしまった。
そのまま2日間、彼は姿を見せなかった。