愛されていたとは知りませんでした。孤独なシンデレラは婚約破棄したはずの御曹司に秘密のベビーごと溺愛される

王子の憂鬱

「はあ」

昴が深々とため息を吐くと同時に、デスクに保冷バッグに包まれたトレイがどんと置かれた。

「商品開発部から、社長説明前にと預かりました」

顔を上げると但馬の睨みが飛んでくる。
中身は見えないが、商品サンプルなのは百も承知だったので、乱暴に扱うなと小言を溢した。

画面上で見ていた報告書を一旦閉じて、トレイに手を伸ばした。

蓋を開けつつ中身を確認後する。

L×O(エルオー)か…」

紙コップを大きくした程度のカップと、それに入れるパウチされたスープが用意されていた。

「十五時からの社長報告のサンプルです。もう店舗完成も目前ですからね」

「今日はパッケージ、量、価格決定の最終チェックか……」

L×Oは、健康的なライフスタイルの事を指す『ロハス』と、農薬や化学肥料を使わない有機農産物を指す『オーガニック』を掛け合わせたブランドだ。
自社で取り扱うオーガニック食品を、より手軽に親しんで貰いたいという考えから産まれた。

元々早間と共同開発したオーガニックブランドは、二十代から中年の主婦層に人気ではあるが、レストランは予約が取れないし、お土産用を百貨店に買いに行く時間もない。値段も少々高めでデイリーユースが出来ないのが残念だという声があり、顧客からももっと手軽に買えたらという要望が多かった。

事業拡大の為に、ブランド力を損なわないようにしつつ、客層ターゲットを十代までに拡大を見込んだ事業プロジェクトを始めた。

価格を抑え、ファーストフードやコンビニのように手軽に店に寄り簡単に買えることが必要だ。

そこで、まずは主要都市部の駅構内に、『L×O SOUP』というテイクアウト専門のスープの店を出店することになった。

健康を心がけたいけれど時間的に余裕がなく、効率的に栄養を摂取したい人向けの商品なので、働き盛りの男性にも響けば良いと思っている。

「今日も定時に上がれそうですね」

但馬が喜々として言った。

「何も問題が起きなければな」

ここ最近は急なトラブル処理もなく、会合や接待もうまい具合に切り抜けている。仕事は怖いくらいに安定していて、おかげで花蓮と歩那との時間を堪能出来るのが嬉しかった。

花蓮が少々忙しくしているが、その分、自分が家事と育児をこなせばいいだけだ。花蓮はひとりで背負いすぎる癖があるので、もっと頼って貰いたい。

なんなら保育園の迎えも任せてもらって構わないのに……。

(まあ、まだ家族として認めて貰えてないからかもしれないな)

本音を言えば、歩那の父親として認めて貰いたい。
歩那にパパと読んで貰えたらどんなに幸せか。

笑うと目尻が垂れるところや、長い睫毛が可愛くてたまらない。
目を伏せたときの表情が花蓮そっくりだ。そういえば、姉のゆかりもそうだった。勲は堀の深いはっきりとした顔立ちだから、花蓮もゆかりも、きっと亡くなった母親に似ているのだろう。
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