愛されていたとは知りませんでした。孤独なシンデレラは婚約破棄したはずの御曹司に秘密のベビーごと溺愛される
山根との話しから数日。
参観日が刻一刻と迫る中、花蓮は昴にいつ打ち明けようか悩んでいた。

なるべく早く伝えるべきだ。
けれど、すべてを話したらぎくしゃくしてしまうのではないかと不安になった。

わがままだとは思うが、最後にずっと夢見ていた思い出が欲しい。

幼少期の、自分を思いだす。保育園も小学校の行事も、体裁だけで参加していた母だけではなく、父にも来て欲しいとずっと思っていた。

香は特段つまらなそうにしているわけでも、会話がないわけでもない。
端から見たら、さぞかしいい母親に映っていただろう。

張りつけたような笑顔。思ってもいないセリフを次から次へと吐き、安っぽいホームドラマを見せられているようだった。

お腹を抱えて笑う家族が羨ましかった。
参観会を三人で、笑顔で過ごしたい。
そのためには今わだかまりを作りたくない。

そんな考えは、ずるいかもしれない。

――――とは思うが、自分の感情を置いておいても、やはり行事を終えてからがベストに思えた。

先に言っておきたいのは花蓮の都合で、昴も歩那も楽しめないのでは意味が無い。

例え後から、なんで先に教えてくれなかったのだと文句を言われるとしても、楽しみを奪うよりましだ。
なによりもまず、家を出る準備が必要だ。引っ越し先も決まっていないのに家を出ますなんて現実的じゃない。

元のアパートを引き払うときに、家財はすべて捨ててしまったので、一から揃えなければならないことなど、金銭面でも問題は山積みだ。

とはいえ、仕事帰りは昴の迎えがあるし、彼の目を盗んで不動産屋に行く時間などなかった。
仕事の休憩時間にインターネットで部屋を探すが、なかなか条件の合う物件に出会えていない。

(あと少しだな)

花蓮は時計を見て息を吐く。
六時の就業時刻まで残り十五分となっていた。

体は長時間勤務にまだまだ慣れない。
たった二時間増えただけなのに、疲労感はそれどころじゃなかった。

帰宅が遅くなると必然的にお風呂、食事、睡眠時間を少しずつ削らなくてはで、慌ただしい生活となり、昴ともゆっくりとした時間を過ごせていない。

一線を越えそうになった翌日からも昴は相変わらず優しいが、なんとなく以前と違う気がした。

ふたりの間にほんの少し、ぎこちなさと距離が出来ていた。
拒んでしまったのだから仕方がないのかもしれないが、寂しくて溜まらなかった。
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