愛されていたとは知りませんでした。孤独なシンデレラは婚約破棄したはずの御曹司に秘密のベビーごと溺愛される

シンデレラは継母と対峙する

香と勲を前にして、花蓮は震えが止まらなかった。
勲は香の味方をするだろう。助言は望めない。

(わたしが不用意に職場に行ったから)

L×Oの店舗なのだから、早間の人間がいるのは当たり前。そこに香が居てもおかしくないと、なぜわからなかったのだろう。
浮かれていた自分を責める。

さすがにその場で言及するほど感情的ではなかったようだが、夜に自宅へ来るようにと昴とともに呼び出された。
花蓮は動揺しっぱなしで、その後どうやって保育園へいき、仕事をしたのか覚えていない。

昴は大丈夫だから心配するなと、何度も言ってくれた。
けれど、不安で押しつぶされそうだ。

きっとたくさん迷惑をかける。そしてまた昴との関係を絶たれてしまうかもしれない。
もう、仕方がないから別れようなどと思える存在ではなく、歩那にも、花蓮にもなくてはならない大切な家族であった。

(またふたりきりになってしまったら、生きていかれない……)

「花蓮。大丈夫」

隣にいる昴は囁き、ぎゅっと手を握った。
香はそれを忌々しげに睨んだ。

「いつからわたしを欺いていたのか教えて貰えるかしら」

自宅だというのに客間に通され、お茶も出されない自分が情けない。

嫌われていることはわかっているが、悲しみに慣れることはない。どうがんばっても平行線な関係にじわりと涙が滲む。自分という存在に価値がないような気がしてしまい、落ちていく気持ちに何とかブレーキをかける。

(ダメ。歩那に同じような思いをさせない為に、わたしは母親になったんだから)

深呼吸をして気合を入れなおす。

例えまたふたりで再出発することになっても、何も変わらない。
どんな状況でも歩那と幸せな家庭を作る。それが大切だ。

歩那は初めてきた場所だからか、不思議そうに部屋を見回していた。大人しくしていてくれるのはありがたい。
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