愛されていたとは知りませんでした。孤独なシンデレラは婚約破棄したはずの御曹司に秘密のベビーごと溺愛される

王子の怒り

昴は沸々と込みあげる怒りを何とか抑えながら、その場に臨んでいた。

「僕から接触したんですよ。それもここ最近の話です。欺いていたとはなんの話です?」

昴が代わりに答える。花蓮が少しでも有利になるように話した。
香は都合悪いことには答えず話を変える。

「男と駆け落ちしたから勘当したと伝えたはずだけど」

「ええ、それでもどうしても忘れられなくて。聞けば駆け落ちした男とは疎遠になってしまったようで、それならば僕を選んで欲しいと求婚中なんです。元々婚約者同士なわけだし、互いに愛し合っていましたからね……ところで、随分お怒りのようですが、接触禁止でしたか? 僕は聞いた覚えがありませんでしたので……」

昴は随分と際どいことを言う。花蓮はとなりでひやひやした。

「ここ最近なんてよく言うわ。会ったばかりで子供がそんなに懐くわけないじゃない」

「やっぱり愛情があると子供にも伝わるものですよね。数日ですっかり仲良くなりました。最近はパパと呼んでくれるようになったんですよ。可愛いですよね」

「自分の子じゃないのに?」

香は鼻で笑う。

「愛した女性の子供です。そりゃあ可愛いでしょう」

昴はふたりを断罪するように言った。
香と勲は苦々しい顔になる。

「こんな形のご報告になってしまいましたが、近々籍を入れようと思っています」

「あ、あなたには冴子さんがいるじゃない!」

「あはは、まだそんな事を。冴子には両思いの相手がいて、その方と結婚予定があります」

「なんですって?!」

相賀も取引に影響がでると困るので、早間側には黙っていたのだ。
大体、仕事と婚姻を結びつけるなど、時代錯誤も甚だしい。

「花蓮の子供だから愛しているですって? お生憎様! その子はゆかりの子供よ! 花蓮が産んだわけじゃないわ! 血のつながりなんてないのよ。愛情があるだなんて、そう思い込んでるだけだわ!」

「お、おい……」

興奮して自分から秘密を話してしまっている香を、勲が止める。

(早間勲……香に対して強くでれないと聞いてはいたが、言いたい放題にさせていて情けない)

会社間の意見交換や現場からの話を聞いても、勲の評判はどんどん落ちていた。
妻を役員に就かせるだけでも問題なのに、好き放題させすぎなのだ。

長年続いていた早間のブランドも、この代で終わるのではないかと囁かれていることに気がつかないのだろうか。どれほどトップメーカーとして君臨してようと、一瞬で崩れ去る時代だ。
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