愛されていたとは知りませんでした。孤独なシンデレラは婚約破棄したはずの御曹司に秘密のベビーごと溺愛される

シンデレラは真実を知る

香からキンキンと発せられる金切声が、頭に響いて痛みを感じた。
花蓮は痛みをやり過ごす。

つらつらと吐かれる呪いのような言葉に、すべてが繋がったような気がした。

勲が香の味方をするのは、葉子の事がきっかけだった。

葉子との結婚は政略結婚だったが、次第に情も積もっていた。子供も出来、一緒にくらしていれば当然かもしれない。
葉子の死後に香と再婚したが、すでに勲の気持ちは、香が望む様なものではなかった。

葉子とは違う種類の愛だったとでも言ったのかも。
それをきっかけに暴走したとしたのなら、とてつもない執念だ。

香は人生をかけて、再婚でもいいからと結婚したのに、だまされたような気持になったのかもしれない。

「あなたたちみんな、わたしの言うことを聞いていればいいのよ! 相賀も桜杜も許さないわ! みんな契約破棄よ! 婚姻はわたしの言う通りにしなさい! みんなそういうのが好きなんでしょ? お金と仕事の為に相手を選ぶの。愛だの恋だの、馬鹿馬鹿しい!」

知らずに涙が流れる。
最初の犠牲は香だったのだ。

「早間さん」

昴は勲を見た。

「僕は、歩那が誰の子供であろうと愛しています。そんなのはどうでも良くて、ただ花蓮と歩那と三人で幸せになりたい。あたたかい家庭をつくりたい。それだけなんです。
あなた方がどれほど反対しようと、僕たちは家族になります。それだけ覚えておいてくださればいいです」

昴の毅然とした態度に励まされ、花蓮も後に続く。

「わたしは……色々あったけれど、昴さんに出会うきっかけをくれたことだけは、感謝しています。笑顔あふれる家庭をつくるのが夢でした。この人となら叶えられるって確信があるんです……。わたしは、昴さんと結婚します。昴さんと、幸せになります」

涙を溜めながら宣言すると、隣で昴が満足そうに頷いた。

「花蓮……」

弱弱しく勲が呼ぶ。

こんなにも小さく見えるのは初めてだ。
いつか、許してもらえる日がくるのだろうか。

たくさん言いたいことはあるのに、上手く話せなかった。

「もう話すことはありませんね。これで失礼します」

昴はもう帰ろうと花蓮の手を取った。
花蓮は歩那を抱っこして立ち上がる。

「す、昴さん……」

「駄目よ!」

その時、香が叫んだ。

「駄目! あなただけ幸せになるなんて許さないわ! 約束を忘れたの? もう桜杜との業務提携は打ちきりよ! 即刻手を切るわ。L×Oの新店舗なんてオープンさせない! 桜杜を潰す手段なんていくらでも――――」

「香さん」

昴はスーツのポケットに忍ばせていたレコーダーを取り出し見せる。
これまでの会話を録音していたのだ。

「これが、何を意味するかわかりますね?」

「昴君! 君ってやつはよくもそんな真似ができるな!」

勲が激高し、テーブルを叩いた。
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