愛されていたとは知りませんでした。孤独なシンデレラは婚約破棄したはずの御曹司に秘密のベビーごと溺愛される

シンデレラは幸せを嚙みしめる

保育園からの帰りの車の中で、歩那は寝てしまった。
今日は泥遊びをしたらしく、大はしゃぎだったそうだ。

ビニール袋の中にまっ茶色に染まった着替えとタオルを見て、思わず「わぁ」と声が漏れた。いったい何回もみ洗いをすれば落ちるだろう。

天気がよければ毎日遊ぶらしいので、泥遊び用の服は新調したくはない。
今日は夕食を予約してくれたらしく、車はマンションとは違う場所へと向かっていた。

運転しながら昴はぽつりぽつりと話だす。

「花蓮の実家に対してこんな風にしてしまって、申し訳ないと思っている」

スクープの影響か、早間の株は急落し大変な状態だ。今までの勢いは影を潜め回復には時間がかかるだろう。

「いえ、感謝しかしていません。お父さんは自分の代で潰してしまうのではというプレッシャーから、とても強引な経営をしてしまっていたのを知っています。いずれは何かしらの綻びが生じて、同じような状態になっていたと思います」

香は療養するとかで、弟をつれて実家に雲隠れしてしまった。

「でもね、俺はあの人たちを陥れたことを後悔していないよ。花蓮にしてきたことを許すわけにはいかない。当然の報いだと思っているよ」

「はい……」

「酷い男だと思うかい?」

「いいえ、そんなわけないです」

花蓮だって後悔していない。
きっぱりと否定すると、昴は「ありがとう」と吐息とともに呟いた。

「本性を見せて、嫌われてないか心配だったんだ」

車は五つ星ホテルへ到着するとエントランスへ車を進めた。バレーサービスにカギを預け、ロビーへと足を進める。

「ホテルで食事なんて久しぶりですね」

付き合っていたころは、デートでホテルのレストランを利用することが多かったなと思い出し懐かしくなる。

「花蓮が高校生くらいの時だろ。あの頃は正直、あまり考えずに女性が喜びそうな定番を押さえておけばいいやと思っていたんだ」

「それでも嬉しかったですよ」

居心地悪そうにする昴にふふと笑う。

「きょうは特別、お泊りもだ」

「えっここにですか?」

「好みじゃなかったら変えるけど」

「とんでもないです。素敵なホテルでうれしいですけど、そうじゃなくて、あしたの仕事休みにしてほしいって、泊まるからだったんですか」

「そう。歩那も俺も休み。みんなでゆっくりしよう」

ベルボーイに案内されたのは最上階のスイートルームだった。
バーカウンターやプライベートプールまで付いていて、部屋とは思えないほど。

しっかりとベビーベッドも用意されていて、嬉しくなった。
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