愛されていたとは知りませんでした。孤独なシンデレラは婚約破棄したはずの御曹司に秘密のベビーごと溺愛される
「ね、王子様とシンデレラってあたしの見立て間違ってなかったでしょ?」

山根はうれしそうに言うが、
「何言ってるんですか。この“Kさん勤務先の同僚Yさん”ってインタビュー受けたの山根さんでしょう!」
怒ると山根はなぜか嬉しそうにした。

「あ、わかる? うふふ。わたしも週刊誌に載っちゃった」

まったく。
花蓮ではなく、自分が載っているから買ったのではないか。

エプロンをはずして帰り支度をおえると、タイミングを見計らったかのようにスマートフォンにメッセージが入る。

『駐車場ついたよ』

同時に目ざとい山根が駐車場と花蓮を交互に見ながら言った。

「シンデレラ。王子様が迎えに来たわよ」

「お疲れ様です。お先に失礼します!」

駐車場へ急ぐと、昴は車の前で数人の女性に囲まれていた。買い物帰りらしき主婦もいて、片手に食品の詰まった袋を持っている人もいる。

「花蓮、お疲れ様」

昴が気づいて手を上げると、囲んでいた女性たちも花蓮に気がつきぺこぺこと頭を下げながら走り去った。
離れたところで「きゃー」と黄色い悲鳴が上がる。

「何かあったんですか?」

昴が他の女性に愛想よくしているのを見るとちょっと妬ける。それを悟られないようにさりげなく聞いてみた。

「花蓮を応援してくれているみたいだよ。週刊誌読んで、感動したとか。幸せにしてあげてくださいって言われたよ」

「そうなんですか?」

てっきり昴目当てだと思ったのに。まさか自分の話をされているとは思わず、恥ずかしくなった。

「ドラマチックに書きすぎなんですよね」

応援はありがたいが、生い立ちは良い思い出ではないので複雑だ。

「主婦層が喜びそうな昼ドラみたいな雰囲気に仕上げていたのも原因かもしれないけど、みんな頑張っている花蓮に心を打たれたんだよ。悪気はなさそうだったから、応援は受け取っておいたよ」

受け取った言葉を渡すように、昴の手がぽんと頭にのった。

「お疲れ様。今日もよくがんばりました」

「はい」

ずいぶんと子供扱いのような気もしなくはないが、満更でもない。
はにかむと、また遠くから「きゃー」と声が聞こえた。

先ほどの人たちがまだ見ていたらしい。
苦笑しながら車に乗り込み、歩那の迎えの為に保育園へと向かった。
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