愛されていたとは知りませんでした。孤独なシンデレラは婚約破棄したはずの御曹司に秘密のベビーごと溺愛される

ワーキングママシンデレラ

花蓮の職場は、アパートと保育園から徒歩で行ける距離にあるスーパーだ。

近場を選んだ理由は、金銭的に車をもつ余裕もないし、歩那がまだ小さいので自転車にも乗れないからだ。

アパートはぼろさに不安もあったが、すべてが徒歩圏内に立地するという条件は悪くないし、限りあるお金の中で生活をしなくてはならないので家賃も安いこともあってここは即決だった。

朝はベビーカーか抱っこ紐で保育園へ行く。
歩那を保育園に預けると、そのままその先にある職場へと向かい、夕方まで仕事をし、帰りにお迎えを終え帰宅するのがルーティンワークだ。

アルバイトをしたことがない花蓮にとって、働くことは初めてだった。

簡単な仕事だとは思っていなかったが、スーパーの勤務というのは想像よりずっとハードであった。レジは立ちっぱなしだし、特に品出しは体力を使う。

そう広くはない中規模のスーパーだが、午前中の品出しだけで一万歩歩く日もある。
バックヤードと店舗内を行ったり来たりを繰り返し、始めた頃は全身が悲鳴をあげた。とくに腰と腕、そして重い野菜を片手で掴むせいか指まで筋肉痛になったかと思うほど痛くなった。

しかし働き始めてから一年とすこし。今では重いカートを転がし、片手でキャベツを掴むことができる。

お給料は特段良いわけではないが、経験もなく、子育てで夕方も日曜祝日も働けない花蓮を雇ってくれ、時間や休みの融通を利かせてくれる職場にとても感謝をしていた。

食事は仕事終わりに買う半額のお惣菜が多いが、最近は手料理も増えてきた。この暮らしを始めるまで一度も料理をした事がなかったから、包丁の使い方という初歩から躓いていたが、人は追いつめられればなんとかなるものだ。

金銭に余裕があるわけでもない。四の五の言っていられる状態ではなかった。
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