愛されていたとは知りませんでした。孤独なシンデレラは婚約破棄したはずの御曹司に秘密のベビーごと溺愛される
職場は世話焼きのおばさまたちが多い事が、花蓮の助けとなっている。
人生の大先輩だ。

お得情報や生活の知恵を、日々伝授してくれるのだ。
特に三十年務めているという大ベテランの山根(やまね)は、体格も性格も大らかなリーダーだ。

女手ひとつということに同情してくれて、孫のおもちゃや古着を譲ってくれたりする。

そのかわり根掘り葉掘りプライベートを聞かれてしまうのだが、誤魔化しながら話をしていたら、“子供を産んだとたん男に逃げられた可哀想な母親”という経歴が出来上がった。

正確には違うのだが、経緯をうまく話せないので、とりあえずそれでいいやと過ごしている。

「こんな可愛い子を捨てるなんて最低の男だよ」
「あたしがいい男紹介してあげるから、人生諦めるんじゃないよ!」

というのが、山根を始めとするおばさま達の励ましだ。

息子を紹介してくれようとした人もいたが、今は歩那だけで手一杯。パートナーの事など考えられないと丁重にお断りをした。

とにかくアットホームな職場で、金銭面はぎりぎりながらも、なんとかやって行けているので花蓮は幸せだった。

今は限りある貯金を切り崩してはいるが、歩那の成長とともに仕事を増やしていけばいい。

未来への不安、ひとりの孤独、過去のぬるい生活を恋しく思うこともあるが、そのたびにマイナスな気持ちを振り払いつき進んだ。


――――大丈夫。なんとか生活を軌道に乗せてやれている。


昴が自宅を訪ねてきたのは、そう感じた直後のことだった。

久しぶりに見た昴は、あの頃と変わらず爽やかで、ずっと憧れていた頃の姿のままだ。いや、少しだけ逞しさが増したかも。

スーツから爽やかなコロンがふわりと香り、匂いにつられて一瞬にして過去の甘酸っぱい気持ちが膨れ上がった。

昔のように、頭を撫でられながら微笑んでもらえたらどんなに幸せだろう……。
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