ワケありベビーと純真ママを一途な御曹司は溢れる深愛で離さない~君のすべてを愛してる~
「や、やだっ……!」

「だいじょーぶだいじょーぶ、早くおいでって」

「やめてくださいっ……! 嫌! 誰かっ」

(どうしようどうしよう)

男の力は強かった。
お腹に歩那がくっついている事ともあって、うまく抵抗できない。

引きずられそうになったとき、突然の怒声と共に男の体が吹っ飛んだ。
通路に設置されている消火器にぶつかり、ガシャンと派手な音がした。

「貴様! 花蓮に何をしている!」

聞き覚えのある声に、瞑っていた目をはっと見開いた。

「す、昴さん……っ」

情けない声が出た。

(な、なんでここに!)

昴はまたスーツ姿で、どこから走ってきたのかいつも整っている髪が乱れていた。

「花蓮!」

逞しい腕に引き寄せられ、勢いで顔面を昴の胸へ強打する。

「ひゃっ……」

花蓮は少し呻き、ふたりの胸でむぎゅっと潰された歩那が「んばーっ」と怒った。

「大丈夫か」

昴は花蓮の肩を抱いたまま、男を睨んだ。
花蓮は昴を見上げ、戸惑いながらも頷く。

「いってえな! 何するんだよ!」

男は腰を擦りながら顔をあげ、唾を飛ばして勢いづいていたがすぐに声を小さくする。

「しゃ、借金取り……?」

「あ? 借金だと?」

昴の眉毛がピクリと動いた。
低い声に、男は後ずさりをする。

冷酷に見下ろす姿は迫力があった。

男は「俺は関係ねぇ」「ふざけんなよっ」などと喚きながら逃げてしまった。

「どこに行ったんだろう……」

唖然と男の逃げた道を眺めていたら、昴がそっと頬に触れた。

「大丈夫だったか」

「っあ、は、はい!」

じんわりと手のひらから伝わる熱に鼓動が跳ねる。
さっきから心臓が忙しい。

昴は花蓮に被害がないことを確認すると、ほうっと息をついた。
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