愛されていたとは知りませんでした。孤独なシンデレラは婚約破棄したはずの御曹司に秘密のベビーごと溺愛される

王子様との再会

「花蓮!」

久しぶりに聞いた彼の声は記憶より低く、恨みがましく耳に届いた。

たった一言、名前を呼ばれただけだったのに、それが桜杜昴(さくらもりすばる)――かつての花蓮の婚約者であった男のものだとすぐにわかったのは、花蓮が一日たりとも昴を忘れることはなく、毎夜、もう一度会いたいと願っていたからだ。

(昴さん……!)

生涯、この人に尽くそうと誓った人。
きっと昴は知らないだろうが、花蓮が婚約者という立場になる前から憧れ、いつかは愛して貰えたらと願っていた男だ。

久しぶりの昴は相変わらず、美しい男だった。

日本人らしからぬ高い鼻梁に涼しげな切れ長の目元。幅広の二重の線が色っぽくて好きだった。女子としては高いほうである、163センチの花蓮が見上げるほど高い身長。濃紺の三つ揃えのスーツが良く似合っている。

付き合っていた時期は毎週ジムに通っていた。まだ運動を続けているのか、張った胸板から色気も感じられる。以前より精悍さが増し、より魅惑的になっていた。
昴の夢を見たのは昨夜のこと。

正夢になったかと一瞬浮かれたが、向けられた目にはっとする。
その目は複雑な色を含んでいて、再会を喜ぶような雰囲気ではなかった。
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