愛されていたとは知りませんでした。孤独なシンデレラは婚約破棄したはずの御曹司に秘密のベビーごと溺愛される

シンデレラは王子様の溺愛に戸惑う

昴のマンションに世話になるようになって、二週間が過ぎた。

身の回りの物は服から化粧品まですべて新しく買いそろえられ、歩那の衣類なども次々と新調されてゆく。
事件があった次の日は、昴は仕事があるにもかかわらず散歩なのだと言いながら、徒歩で保育園とスーパーまで送ってくれた。

帰りには新品のチャイルドシートが装着された車で迎えに来てくれ、空いた座席には子供用品がたっぷり詰まった紙袋をいっぱいに乗せてあり、マンションに帰宅してからもベビーベッドや椅子などが山ほど届いた。

食事はすべてシェフが作ったものが届けられ、部屋の掃除は雇ったハウスキーパーが。
保育園と職場への往復は昴の車で送迎だ。

昴は毎回、保育園の中まで歩那を抱っこして付いてきて、提出物や荷物のセットまでこなしてしまう。

保育園の先生方は余分なことは言わないが、「ハイスペックイクメン!」といったきらきらとした目で昴を見ていた。

仕事と家事と育児に追われる毎日に、自分がふたり……いや、三人いればなどと思うことなどしょっちゅうだった。
だから助けはありがたいが、こうも毎日だと申し訳ない。

仕事は忙しくないのかと聞くと、ずっと仕事第一だったから、今はプライベートを最優先したいのだと言う。
自分の時間が欲しいのなら、尚更時間を割いてもらうのが申し訳ないのに、

「俺のお願い、聞いてくれないんだ?」
「花蓮が甘えてくれると嬉しいんだよ」

などと腰が砕けそうな言葉をはいて、花蓮を助けてくれるのだ。

付き合っていた頃、常に感じていた壁はなんだったのか。
言葉も仕草も、いつの間にこれほどまでに甘くなったのだろう。

あまりに遠慮していると、今度は
「俺は頼って貰えないほど信頼を失ってしまったんだな」
などと悲壮に訴えてくるものだから……。

花蓮は戸惑いながらも甘えてしまっている。
でも、やっぱり、ずっとこのままではいけない。

母親にばれたら、昴の築きあげた努力が無駄になってしまうから。
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