愛されていたとは知りませんでした。孤独なシンデレラは婚約破棄したはずの御曹司に秘密のベビーごと溺愛される
不動産屋とは入居の時以来、一度も連絡を取っていない。

『大変なんです! 早間さんのお部屋が荒らされていて』

「え?」

『窓ガラスが割られているし、部屋の中も荷物がめちゃくちゃなんです。今、大家さんと警察の方も来ていて……』

「う、うそ……」

『今、どちらですか? 至急お戻りいただきたいのですが』

「え、え? ええと……」

「どうしたの?」

動揺していると、昴が電話に耳を寄せる。

「あ、あの、わたしの部屋が、荒らされているって。それで警察が……どうしよう」

しどろもどろに説明すると、表情を硬くした昴が電話を変わってくれる。

「お電話代わりました。わたしが代わりに話しを伺います」

昴は冷静に話を聞き通話を終えると、おろおろとしてばかりの花蓮の頭を撫でた。大きな手が頼もしい。
通話を終えると、昴は車のキーを掴んだ。

「すぐにアパートに行こう」

「何があったんでしょう……怖い……」

「落ち着いて。俺も付いていくから、ね?」

昴に宥められ、もたつきながら準備をした。歩那を置いていくことは出来ないので、眠そうにしていたが抱っこをして連れていく。

空き巣か、何かだろうか。
ずっと留守にしていたのがよくなったのかな。

幸い、貴重品は手元だし、高級品ももとから置いていないので取られて困るものはない。

(なんで、わざわざ金品のなさそうな部屋を選んだんだろう)

泥棒だとしても、なぜという思いしかない。
ふと、隣の男を思いだした。
男は昴においらやれ、逆上し、恨みがましい目で睨んでいた。

ぶるりと体を震わす。

(まさか、ね……?)

気づかずに昴にしがみついていたせいか、震えが伝わったらしい。
昴は玄関を出る前に抱きしめ背中を撫でてくれた。

ひとりでは狼狽えるばかりだったと思う。
とても心強かった。
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