愛されていたとは知りませんでした。孤独なシンデレラは婚約破棄したはずの御曹司に秘密のベビーごと溺愛される
昴の抱く力も強くなり、花蓮も首に手を伸ばす。
涙が止まらないせいか、キスは甘じょっぱかった。

「す、ばる、さん……好き……好き……」

気持ちを抑えられずに、うわごとのように繰り返した。
何百回言っても足りない。

言葉にすると、愛おしい気持ちがこれまでの何倍にも膨れ上がった。
これ以上ないというほど想っていたはずなのに。

「あーもう。花蓮、可愛すぎる」

「え、あっ……」

昴は花蓮と唇を合わせたまま、ソファに押し倒した。
ばふん、と軽くスプリングが跳ね、花蓮はそれを背中で受け止める。

すぐにのし掛かる昴の重みを感じ、恥ずかしさで全身が灼けそうになった。
身を捩ったら余計に体つきを感じてしまい、その生々しさに耳まで真っ赤になる。

「ずっとずっと、花蓮が欲しかった」

はぁ、と艶めかしい吐息に、お腹の奥がぞくりとする。

「わた、し、を……?」

「そうだよ。ずっと我慢してるのわかってる? お風呂上がりは無防備だし、最近は慣れてきて家にいると下着を外してるでしょ。まあリラックスしてもらいたいからいいんだけど。寝る部屋が別なのは花蓮のためじゃなくて、俺が襲わないようにっていう自衛の為なんだからね。高まる気持ちをなんど諌めたことか……」

「す、すみません……?」

謝るべきかわからなかったが、とりあえず謝罪をくちにする。
気が緩みすぎたのは申し訳なかったかもしれない。

ドキドキは今だって毎日するが、いつもまにか緊張はなくなってしまっていた。

(だって、昴さんとの空間は心地良くって……)

「適当な謝罪は受け入れがたいな」

昴はむっとしたらしく、鎖骨にかりっと歯を立てた。

「あっ……適当なんかじゃ。ちゃんと分かって…………ん、す、ばる、さんっ……」

軽い刺激に上擦った悲鳴を小さく溢して、首を仰け反らせる。

「俺の気持ちをわかってるなら、今夜このまま、俺のものになって。……もう我慢の限界。花蓮が欲しくてたまらなくて、どうにかなりそうだ」

噛みつくようなキスに、頭がくらりとする。
すべて身を任せてしまいたい衝動に駆られた。

歩那が起きてしまうかもという理性は、求められる喜びに頭の隅に押しやられた。
今だけは迷いを捨てて、この人に応えたい。頭の中が、自分のことだけでいっぱいになる。

「っす、昴さん……っ」

しかし、しがみつこうとした手を叱咤して行く先を変更する。昴の胸をやんわりと押し返した。
諌める声が震えた。
その時の、昴のはっとした顔が目に焼き付いた。

「ごめん。調子に乗った……」

花蓮は顔を横に振って否定した。
謝らないで。何も悪くない。

この先ずっと、彼を傷つけてしまったことを後悔するだろう。
こんなにも好きなのに。
ずっと昴のことだけを思って生きてきたのに。
どうして幸せになれないんだろう。

気持ちが通じ合っても、胸が痛いものなのだと知った。ずっと一方通行しかしらなくて、こんなに虚しいことはないと思っていたが、これはこれで辛い。

何も知らない頃の方が幸せだったのかな。

「はぁ。ごめん。ちょっとだけ、気持ち落ち着かせる時間ちょうだい」

昴は花蓮にもたれたまま、悩ましげに呻った。

(ーーーーわたしを、あなたのものにしてください)

そう言いたいのに。

言えない自分が嫌でたまらなかった。
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