愛されていたとは知りませんでした。孤独なシンデレラは婚約破棄したはずの御曹司に秘密のベビーごと溺愛される

シンデレラの決断

午前中の買物客のピークが来る前に、朝に出し切れなかった青果の品出しを終えなくてはいけない。
今日はキャベツの特売日で近所の農家から大量に仕入れたので、補充を何度もしなくてはならなかった。

大きな玉を片手で持ち陳列していると、親指と腰が痛くなってくる。
お昼前は総菜を求める客が多い為、今の仕事を早く終わらせて、総菜コーナーのヘルプにいなくてはだ。

昴のことや早間のことを考えてしまい、どうも仕事に集中できていなかった。

「はぁ」

曲がった腰をぐきぎと伸ばしながらため息をつくと、通りかかった山根が脇腹をつついた。

「こら。フロアでため息ついちゃだめよ」

耳元でお叱りをうける。

「はいっ! すみません」

山根だけに聞こえるようにしゃきっと返事をして背を伸ばす。慌てて残りのキャベツを売り場に出すと、空になったカートを押しバックヤードへ戻った。

同時に品出しを終えた山根も戻ってくる。
小休憩となり、ふたりで事務所に入った。

二時間ほど働くと、10分ほどの休憩を貰えるのだ。
働きづめとならずに、気持ちを入れ替えられるので助かっている。

山根は花蓮の向かいに座ると、テーブルに置かれている茶菓子を摘まんだ。

「どうしたのシンデレラ。王子様に愛されて幸せいっぱいなはずなのに、悩ましげなため息ついちゃって」

“愛されて幸せいっぱい”かぁ。
今日はシンデレラよりそちらが気になった。

その通りだ。こんなにも愛してもらっているのに、素直に受け取ってあげられない自分に自己嫌悪する。
ため息の原因は、保護者参観会についてだ。

昴とふたりで参加することに決まり、昴は花蓮の気持ちが変わらないうちにと、今朝早々に書類に記入し提出してしまった。
歩那にも「いっしょに遊ぼうな」などと話しかけていて、後戻りはできなそうだ。

「月末に、保育園で保護者参加会があるんです」

「いつ? 休みはとった?」

山根はすぐにシフトの心配をしてくれた。
こういう家庭のスケジュールも大事にしてくれるところが、この職場の有難さだ。

「ええ、それは先月から申請していたので大丈夫です」

「じゃあ、なんでそんなに憂鬱そうなの」

「……彼が……昴さんが一緒に参加することになって……」

「あら! いいじゃない。イケメンでイクメンだなんてほんと素敵。本人が参加したいって言ってくれてるなら、細かいこと気にしないで甘えられるうちは甘えておけばいいのよ。何れは籍を入れるんでしょう?」

花蓮が悩んでいるのを、昴も勘づいているだろう。
決まったことをうじうじと悩んでいるのは彼にも失礼だとは思う。

「昴さんには本当に良くして貰ってます。けれど、いつかは……ううん。出来るだけ早くお別れしなくてはいけなくて……それで……」

言葉にするととても悲しくなった。
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