【完結】鍵をかけた君との恋
君が好き
 私は陸が好き、昔からずっと。保育園の頃から一緒で、家が近くて。

 シングルマザーの陸の家と、子育てに協力的ではない遊び人の父を持つ私の家とで、母同士は協力し合いながら、日々子育てに奮闘していた。ひとりっ子の私にとって陸と楓と過ごす時間は、保育園での遊び時間が延長された気がして、とても楽しかった。
 一緒の家に住んでいたらばいばいなんてしなくていいのに、そう思っていた時期もあった。

 小学二年生のバレンタインデー。陸はクラスの女の子から、人生初めてのチョコをもらっていた。楓に「ひとくちちょうだい」と言われても無視で、私達の目の前、全て平らげた。
 楓は単純に、ケチだと怒っている様子だったが、私の中には違う感情が生まれていた。陸を好きだと感じ始めたのは、この頃からだと思う。

 毎日陸を目で追って、他の女の子といれば悲しくなって。小学五年生で恋だと認めた。

 中学一年生の時、陸に好きだと告白をされた。嬉しいくせに、照れ臭さの方が(まさ)ってしまい、思わず「嘘でしょ?」と言った。すると陸も「罰ゲームで告っただけ」と言った。ショックだった。

 それから何度か遊びか本気かわからない告白を陸から受けたけれど、付き合う気にはなれなかった。いや、イエスと言うのが怖かった。
 中学生ともなれば、恋愛に夢中になる友達も多く、次々結ばれていく。でもそんなものはすぐに壊れ、お互い外方(そっぽ)を向くようになる。それを学んでしまった。
 思えばうちの親も、陸の親も、恋愛に失敗した人間のひとりだ。本当に大事な人ならば友達でいるべきだと、そう感じた。

 何人かに告白をされて、何人かと付き合った。本気の愛ではなくとも、皆に隠れてするキスはそれなりにドキドキしたし、抱きしめられる感覚も嫌いじゃない。でもやっぱり、すぐに終わった。
 校内だけでもこれだけ多くの出会いがあるのに、相手が他の子に目移りしないわけはないし、私も義務化されたメールを疎ましく感じたりもした。

 人生において恋愛はただの暇潰しであり、飽きたら皆、よそへいく。

 しかし最近の私は、少し困惑しているんだ。
 私の心が自分にないと知っていても受け入れてくれる勇太君や、何度邪険に扱われようが、私を想っていてくれる陸といると、永遠という二文字が頭にチラついてしまう。そして、心のどこかで可能性を信じてしまう自分を嫌に思う。確実なんてそんな言葉、とうに辞書から消したのに。


「乃亜?」

 勇太君が、私の顔を覗き込む。

「えっと……あ、ごめん。聞いてなかった」
「ううん。この問題、難しいもんね。もっとわかりやすく言うね」

 彼の部屋での受験勉強。彼は己の手を止めて、私に構ってくれる。

 あれからの勇太君はキスもしてこなければ、その先も求めてこない。本当にただ、隣にいてくれるだけ。手は時々繋ぐけれど、それは外を歩いている時だけで、部屋へ一歩入れば触れもしない。陸とのことも聞いてこない。私を責めない、咎めない。優しさだけを与えてくれる。そしてそれは、心地の良いことだった。
 これも愛のかたちだというのなら、ありなのだろうか。
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