【完結】鍵をかけた君との恋
 遊園地に行く日は、朝から太陽が照りつける真夏日だった。私がアラームよりも先に目が覚めたのは、耳に嫌でも入ってきたさんざ煩い怒鳴り声のせいだ。

「な、何っ、喧嘩!?」

 居間に駆けつけた私の目に飛び込んできたのは、三角の目をした父と、涙で顔がぐしゃぐしゃになった奈緒さん。父は私にも怒声を浴びせてくる。

「乃亜は黙っていなさい!大人の話に入ってくるな!」
「はあ!?」
「奈緒、もうお前なんかと暮らせない!出ていけ!」

 バンッと椅子を蹴り上げる、気狂いにも似た父の所業。奈緒さんは叫ぶ。

「どうしてそんなこと言うのよ!いきなりそんな、酷いじゃない!あなたの誤解よ!」

 今までに聞いたことのない、彼女の荒立った声。見たこともない、取り乱した姿。

「もういい、出てく!最っ低!」
「ああ、出てけ出てけ!二度とその顔を見せるな!」

 気が動転した私は、その場でおろおろと身を行き来させるだけだった。


 自身の部屋へ向かった奈緒さんは、荷造りをし始めた。混乱する中、彼女の背中に話しかける。

「奈緒、さん?」

 ビクッと上がる、彼女の肩。

「奈緒さん、この家出てくの……?」

 何着かの服を鞄に放り込み、腕にかける彼女。私の横を通り過ぎる際にこう言った。

「ごめんね……乃亜ちゃん」

 パタパタと去って行くスリッパの音。ガチャガチャと鍵を取る音。そしてバタンと扉が閉まる音。全ては虚しく、耳と心の底で響いた。


 煙草に火をつけた父は、ぶつぶつと奈緒さんの愚痴を台所で吐いていた。私は彼女のいなくなった薄暗い部屋を目に入れながら、母が病院から帰って来られなくなったあの日を思い出す。ここは元々母の部屋。一生忘れない、あの日。

 父と別れたら捨てられる。そんなことは承知していたはずなのに、最近の私は、奈緒さんの言動に愛を感じてしまっていたから忘れていたんだ。

 愛など長続きしない。そういえば、そうだったよ。
< 173 / 197 >

この作品をシェア

pagetop