【完結】鍵をかけた君との恋
「突然出て行ってごめんなさい……実家で少し、頭冷やしてた。それでまた、一緒に住みたいって思ったから、戻ってきた」

 なんだその理由はと怒りが湧く。逃げ場にすぐ逃げ帰るのならば、また同じことを繰り返すだけではないかと。
 ずるいと思えば、咎めていた。

「何言ってんの?またお父さんと喧嘩したら、出て行くんでしょ?どうせまた、捨てるんでしょう?うちを奈緒さんの気紛れな居候場所にしないで欲しいっ」
「もう出て行かない」
「そんなの信じられないよ」
「もう絶対に、出て行かない!」

 大きな声を出されて怖気づく。だけどそれはどうしてだか、悲しみへと変わっていった。

「私、やっと人の愛を信じることができたの……それをまた、奈緒さんにかき乱されたくないっ」

 彼女には望まない。愛も、情も、何もかも。だからお願い。

「もう何も、期待させないで……」

 今にも泣いてしまいそうだった。ずっと気に掛かっていた奈緒さんとせっかく会えたのに、こんな言い方しかできない自分を情けなく思った。だけど今ここで突き放さなければ、私はもっと辛くなる。それが怖かった。


 鞄をドンッと地面に置き、彼女はそこから一枚の紙を取り出した。そしてそれを、伸ばした腕で広げて見せる。

「私、あの人にプロポーズする。乃亜ちゃんとお父さんと、本当の家族になりたいっ」

 紙には「婚姻届」と書いてあった。妻の欄には彼女の名前。

「いくら待ってても結婚しようって全っ然言ってはくれないし、初めて大きな喧嘩をすれば出てけって言われる。ほんと、呆れるくらい乃亜ちゃんのお父さんは子供よね」

 夢か現実か咄嗟に判別できず、私はその紙を受け取って、何度も見直した。

「でも、だからこそ放っておけない。乃亜ちゃんのことも大事なくせして、不器用すぎなんだよっ。私、側にいたいの。お父さんと乃亜ちゃんの側に」

 百回ほど「婚姻届」と反復して、ようやく脳が理解した。これは紛れもなく婚姻届だ。
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