【完結】鍵をかけた君との恋
決断
 勇太君からのメールには『この前のカフェで待ち合わせ』と書かれていた。到着すると、ドリンクを嗜む彼の姿が目に入る。

「早かったんだね、勇太君」
「十分前に着いたんだけど、何もオーダーしないで座るのも悪いかなあって思って」

 メニュー表を開くことなく、私はグレープフルーツジュースを注文した。

「体調大丈夫なの?軽い貧血だって連絡くれたけど……」
「うん、もう大丈夫。心配かけてごめんね」

 突然襲ってくる嘔気に、今日だけは見舞われませんようにと心で願う。


「体育祭、陸には負けたけど収穫もあったんだよね」

 頬杖をついた彼は言った。

「乃亜が俺の恋人だって、全校生徒の前で言えたこと」

 その朗らかな表情に、ズキンと胸が痛む。

「だってさ」と理由を述べようとしてくれた彼を、幾らか大きな声で遮った。

「ふ、ふたつ!」

 カフェにはそぐわないその音量に、彼の目が点になる。

「今日はふたつ、勇太君に言いたいことがあるの……」

 神妙な面持ちの私を前に、一気にグレーを帯びた彼。私は気を引き締める。

「勇太君の子供を妊娠しました。産むことはできないから……一緒に病院へ行って欲しい」

 彼の瞳が広がった。

「あと」

 次のひとことの方が、傷付けてしまうかもしれない。

「私と別れて欲しいっ……」

 頭を下げた視線の先に映るは、可愛いエメラルドグリーンのテーブルとグレープフルーツジュース。耳に届くさざ波のBGMは、ヤシの木と壮大な海が想像できる。

 勇太君は今、どんな顔をしているのだろうか。
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