冷徹御曹司は想い続けた傷心部下を激愛で囲って離さない
凌士が眉をひそめた。ふたりのほかに乗りこむ者もいないまま、上部に表示される階数はどんどん一階に近づく。あさひは焦った。
「断ろうだなんて考えもしてませんでした。ただ、どうすれば怖気づかずに、次の話ができるかを考えていて」
「わからんな。職場で顔を見るだけでは物足りないから、誘った。それだけだが」
「統括は人たらしです……っ。鋼鉄の男だなんて、ぜんぜんうそ」
「碓井は、俺にたらされたか?」
真っ正面から探るように目を見つめられて、あさひはたまらず目を逸らした。
こんな冗談に胸が跳ねるだなんて、どうかしている。
凌士は上司。本気にしてはいけない。
「そういうことを言うと、女性を期待させるから気をつけられたほうがいいですよ」
「一般論はいい。碓井は? 期待したか?」
また真剣な顔。あさひは返答を探しあぐね、エレベーターの階数ボタンを意味もなく数える。
(わたしが、期待? 統括……凌士さんに? なにを)
自分の心を探る。まだ、景と別れたばかりなのに、まさかそんなわけないと否定しかける。
けっきょく、出てきたのは内心とは別の答えだった。
「……わかりません」
凌士の目に吸いこまれるように見入ったとき、ポン、とエレベーターがロビーフロアに着いたのを示す音が鳴った。どきりとして目を逸らすのとドアが開くのは同時だった。
定時直後はエレベーターもロビーフロアもひとで溢れかえるものだけれど、今は定時前だからかかえってひとがおらず、乗りこむ者も見当たらなかった。あさひは胸を撫で下ろした。
「碓井」
凌士が続きを言いかけたが、けっきょく「行ってくる」とだけ口にしてエレベーターを降りる。あさひはその背に「あの」とたまらず声をかけた。
「お気をつけて。でもあまり根を詰めすぎないでくださいね」
開ボタンを押したまま、ぎこちなく微笑んでもう一方の手を振る。ところが、なぜか凌士は引き返してきた。
「忘れ物ですか? 統括——」
言い終わる前に、凌士が後ろ手で閉ボタンを押す。
目の前に影が差して、近すぎる距離に目をみはったときには。
(え!? な……なに?)
――顎をすくわれ、唇を塞がれていた。
「断ろうだなんて考えもしてませんでした。ただ、どうすれば怖気づかずに、次の話ができるかを考えていて」
「わからんな。職場で顔を見るだけでは物足りないから、誘った。それだけだが」
「統括は人たらしです……っ。鋼鉄の男だなんて、ぜんぜんうそ」
「碓井は、俺にたらされたか?」
真っ正面から探るように目を見つめられて、あさひはたまらず目を逸らした。
こんな冗談に胸が跳ねるだなんて、どうかしている。
凌士は上司。本気にしてはいけない。
「そういうことを言うと、女性を期待させるから気をつけられたほうがいいですよ」
「一般論はいい。碓井は? 期待したか?」
また真剣な顔。あさひは返答を探しあぐね、エレベーターの階数ボタンを意味もなく数える。
(わたしが、期待? 統括……凌士さんに? なにを)
自分の心を探る。まだ、景と別れたばかりなのに、まさかそんなわけないと否定しかける。
けっきょく、出てきたのは内心とは別の答えだった。
「……わかりません」
凌士の目に吸いこまれるように見入ったとき、ポン、とエレベーターがロビーフロアに着いたのを示す音が鳴った。どきりとして目を逸らすのとドアが開くのは同時だった。
定時直後はエレベーターもロビーフロアもひとで溢れかえるものだけれど、今は定時前だからかかえってひとがおらず、乗りこむ者も見当たらなかった。あさひは胸を撫で下ろした。
「碓井」
凌士が続きを言いかけたが、けっきょく「行ってくる」とだけ口にしてエレベーターを降りる。あさひはその背に「あの」とたまらず声をかけた。
「お気をつけて。でもあまり根を詰めすぎないでくださいね」
開ボタンを押したまま、ぎこちなく微笑んでもう一方の手を振る。ところが、なぜか凌士は引き返してきた。
「忘れ物ですか? 統括——」
言い終わる前に、凌士が後ろ手で閉ボタンを押す。
目の前に影が差して、近すぎる距離に目をみはったときには。
(え!? な……なに?)
――顎をすくわれ、唇を塞がれていた。