鮮血の妖精姫は、幼馴染の恋情に気がつかない ~魔法特待の貧乏娘、公爵家嫡男に求婚されつつ、学園生活を謳歌します~

アーロン・アークライトという少年

「また男の子に逃げられたんだって?」
「うっ……。まあ、そうなりますね……」

 その日、マリアベルの元を訪れていたのは、公爵家嫡男のアーロン・アークライト。
 マニフィカ家には馬車を持つ余裕もないため、二人が会うときはアーロンのほうからやってくる。
 唯一の使用人である執事がいれたお茶を、アーロンは澄ました様子で口にしている。

「うちも一応は由緒正しい家なので、婚約相手にどうかな~と会いに来てみる人はいるんですけどねえ……。鮮血のマリアベルですからねえ……」

 本人の口から放たれた「鮮血」の言葉に、アーロンがむせた。

「僕は今でも、妖精姫だと思ってるよ……」
「笑いながら言われても、説得力がありません。妖精姫なんて、3歳や4歳のころの話じゃないですか。過去の栄光ですよ、過去の。もう失ったものです」

 マニフィカ伯爵家は、今でこそ借金だらけの貧乏伯爵家だが、一応は由緒正しい家だ。
 不正などを行った覚えもなく、国からの信頼もあつい健全な家系である。
 龍脈なんてものが見つからなければ、領地もマニフィカ家も困窮することはなかっただろう。
 貧乏になったのだって、領地を守るためだ。
 魔物発生後の復興もしっかり進んでおり、借金持ちになった今も、マニフィカ伯爵家を高く評価する者は多い。

 加えて、マリアベルは美少女だと評判「だった」。妖精姫、なんて呼ばれていたぐらいだ。
 ゆえに、婚約相手としてどうかな、とマリアベルに会いに来る貴族も存在はするのだ。
 まあ、現在は妖精などと呼ばれることはなく、鮮血の二つ名を手にしているので、箱入り息子たちはみんな逃げていくわけだが。

「今のきみは、鮮血の妖精姫ってところかな?」
「合体させないでくれます?」
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