鮮血の妖精姫は、幼馴染の恋情に気がつかない ~魔法特待の貧乏娘、公爵家嫡男に求婚されつつ、学園生活を謳歌します~

その寵愛に、周りは気が付いている

 さらに時は流れ、マリアベルの学院入学が近づいていた。
 今日は、午後からアーロンがやってくる予定だ。
 デビュタントを意識されたパーティーで、彼がマリアベルのエスコートを担当する。
 その打ち合わせのために、彼はわざわざマニフィカ領まで足を運んでくれるのだ。
 
「マリアベル様。そろそろご入学ですね。おめでとうございます」
「ありがとう、サナ」

 杖を携えてパトロールを行うマリアベルに、領民の女性が気さくに話しかける。
 今日のマリアベルも、アーロンとの約束の時間が近くなるまで、町を見回るつもりだった。
 なにがなんでも、領地と領民を守りたいのだ。

 サナと呼ばれた女性は、このマニフィカ領で大成功した商人の奥様。
 ……とはいえ、羽振りがよかったのは、10年以上前の話なのだが。
 マニフィカ領の困窮とともに弱ってしまったが、今でもマリアベルの家よりは余裕があるだろう。
 サナ本人も裕福な家庭の出身で、王立学院の卒業生だ。
 
「マリアベル様も、パーティーには参加されるのですか?」
「ええ。アーロン様がエスコートしてくださる予定よ。うちが貧乏だからか、ドレスも着付けスタッフも事前の手入れの人員も、みーんなアークライト家で用意する、なんて言われてるわ」

 マリアベルは、大げさに手を動かしながら苦笑する。
 そこまでされないと、貧乏娘の自分はデビュタントの予行演習にすら参加できないのだろう。
 名家の嫡男であるアーロンの隣を歩くのだから、なおさらだ。
 最初こそ情けないと思ってしまったものだが、時間が経った今では、アーロンへの感謝の気持ちが大きい。
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