鮮血の妖精姫は、幼馴染の恋情に気がつかない ~魔法特待の貧乏娘、公爵家嫡男に求婚されつつ、学園生活を謳歌します~
 アークライト家の馬車が、マニフィカ邸に到着する。
 もう日が沈みかけており、あたりはオレンジ色に染まっていた。
 先に馬車をおりたアーロンが、マリアベルに向かって手を差し出す。
 彼女は、少し迷う様子を見せてから、アーロンの手に自分のそれを重ねた。
 マリアベルの手に触れたまま、アーロンが切り出す。

「……ベル。今日の話、僕は真面目に進めたい」
「……結婚、ですか? でも、私は……」

 マリアベルの魔力の高さや、魔法を扱う才能は、突然現れたもの。
 だから、自分と結婚しても、期待通りの子が産まれるかどうかわからない。
 そう言いたいのだろう。
 戸惑うマリアベルの手を、アーロンが両手で包み込むと、彼女に正面から向き合い、そのはちみつ色の瞳でマリアベルをとらえた。
 マリアベルの空色の瞳には、アーロンが映り込む。
 
「真剣なんだ。今度はちゃんと家を通して、婚約を申し込む。だから……」
「だから……?」

 僕から、離れていかないで。
 他の男のところになんて、行かないで。

 そんなことを言うのは、流石に情けないように思えて。
 アーロンは、続く言葉を飲み込んだ。

「……いや。ベル、今日は疲れているところに、急にごめんね。ゆっくり休んで? 婚約の話は、学園生活に慣れてから考えてくれてもいいから。……週明け、また迎えに来るよ」
「……はい」

 去り際の彼は、いつも通りの柔和な笑みを浮かべていた。
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