鮮血の妖精姫は、幼馴染の恋情に気がつかない ~魔法特待の貧乏娘、公爵家嫡男に求婚されつつ、学園生活を謳歌します~
 けれど、アーロンに選ばれる可能性がゼロになったわけではない。
 マリアベルは、王立学院の学費すら用意できないような、貧乏娘。
 名門公爵家に釣り合うようには思えない。
 アーロンがマリアベルに懸想している、という噂はあるのに、彼らが婚約していないことが、その証拠であるようにも感じられる。
 学院入学後、きっと自分にもチャンスがやってくる。
 王立学院に、マリアベルはいないはずだ。
 マリアベルと離れているあいだに、彼が他の女性を……自分を見て、あんな女ではいけないと、目を覚ましてくれるかもしれない。
 そう、思っていたのに。

「なんで、いるのよ……!」

 マリアベル・マニフィカは、学費免除の魔法特待生として、王立学院に現れた。
 それも、アーロン・アークライトによる学院までの送迎と、入学後のパーティーでのエスコートつきで。
 見た目だって、聞いていた話と全く違う。
 血濡れの暴力娘どころか、めったにお目にかかれない、妖精のような美人だ。
 アーロンが彼女にデレデレなのはすぐにわかったし、他の男たちも、彼女に見惚れてぼうっとしている。

――なによこれ! なによこれ! おかしいじゃない!

 この学院で、アーロンに近づくチャンスがあると思ったのに。
 自分のほうが、彼にふさわしいと思っていたのに。
 王立学院に入学したマリアベルは、アーロンの寵愛も、男子人気も、かっさらっていった。
 

 パーティー直後の登校日。
 始業前のクラリスは、仲睦まじく登校したアーロンとマリアベルを、木の陰から覗き見ていた。
 アーロンがマリアベルの手を取り、そっとキスを落とす。
 その動作も、表情も、誰がどう見たって、愛しい人に向けるそれで。
 なのにマリアベルのほうはといえば、たいしたリアクションもなく、1年生の教室へと向かっていった。

――アーロン様に愛されているのに、その態度はなに!?

 マリアベルがアーロンに寵愛されていること、なのにその愛情を受け止めていないことが、腹立たしくて、悔しくて。
 痛い目に遭わせてやろうと、攻撃魔法を向けたこともあったが、簡単に防がれて。
 マリアベルの何もかもが気に入らなくなったクラリスは、言葉による攻撃を行うようになっていった。
< 72 / 113 >

この作品をシェア

pagetop