鮮血の妖精姫は、幼馴染の恋情に気がつかない ~魔法特待の貧乏娘、公爵家嫡男に求婚されつつ、学園生活を謳歌します~
「! 今の……」

 森を歩くマリアベルの耳に、かすかだが、子供の悲鳴のようなものが届く。
 弾かれるようにして駆け出し、声の発生源へ向かっていけば、そこには、イノシシのような見た目をした魔物に追い詰められる少年の姿が。

「マリアベル様!」
「すぐ助けるから! じっとしててね!」

 今すぐ攻撃したいところだが、少年との距離が近すぎる。
 このまま派手な魔法を使えば、彼も巻き込んでしまうだろう。
 マリアベルは、まず魔物の注意を自分に向けることにした。

 短く歌いながら杖を動かし、空中に素早く陣を描く。
 水の球が数個出現し、マリアベルが杖で示した方向へ発射される。
 人間に当たっても害がないほどの低威力に調整された、水魔法である。
 それらをぶつけられた魔物は、ターゲットをマリアベルに切り替えた。

 魔物が自分に向かってくるようになれば、あとは簡単だ。
 先ほどと同じ要領で氷の矢を作り出し、魔物に向かって放つ。
 正式な名称はたしか、アイスニードルだったはずだ。
 矢は魔物に深々と突き刺さり、絶命させた。

 男の子を親元まで送ったあと、マリアベルは森に戻る。
 魔物は危険で迷惑な存在ではあるのだが……中には、食用になるものもいる。
 先ほどのイノシシのような魔物は、肉が美味い。
 貧乏貴族のマリアベルからすれば、貴重な食糧である。
 ナイフを使い、その場で獲物の処理をする。
 一頭まるまるはマリアベルの体格では運べないから、肉を切り出した。
 氷魔法を付与して冷たい状態を保てば、お持ち帰り用お肉の完成である。

「晩御飯ゲットー!」

 領民を救い、食料も手に入れて。マリアベルはるんるんであった。
< 8 / 113 >

この作品をシェア

pagetop