炎の魔女と氷の皇帝*転生したら弟子と契約結婚をすることになりました*
そこからあらためて流氷の結界を観察する。

「動いて戦っているカルディア兵は、いないようね」

 この場を占拠しているのはグレシャー帝国兵だ。彼らは流氷の結界で凍ってしまった人たちを、川から引き抜いて救出しているようだった。凍り漬けになってまだ時間が経っていない者は息があるらしく、捕虜として縄で拘束したあと、火の近くで暖を取らせている。

 流氷の結界を避けて、帝都へ向かって進軍したカルディア兵の退路は完全に断たれているようだ。兵糧は彼らのもとへ届かない。行き着く先はリアムが狩り場と言っていた場所だ。

「リアムの言うとおり、ここは対策が手厚くされている」

 人員を多く割いているのは見て取れた。心配していた一般人はすでに避難しているらしく見当たらない。建物もそれほど大きな被害は出ていない。

 凍り漬けのカルディア兵の多さに胸は痛むが、もし、流氷の結界がなければ足止めはできず、こちら側の被害は甚大だったことが見て取れた。

 体制が問題なく機能しているならば、すぐにでもリアムのもとへ向かうべき。だが、ミーシャは戻ることができない。結界が今も強く発光している原因が見当たらないからだ。

「もう一度、結界に近づいて見よう」

 見つからないように、移動を開始したときだった。鼓笛隊が敵の襲撃を知らせ、当たりは一気に騒がしくなった。ミーシャにも緊張が走った。胸に下げている魔鉱石を握る。

「化け物が、狼の化け物がまた出たぞ!」

 ――狼の化け物? 

 狼と聞いて、まっさきに浮かんだのは精霊獣の白狼だった。騒ぎが酷い場所を見たミーシャは目を見開き、息を呑んだ。

 グレシャー帝国兵が相手しているのは、氷像のような姿の狼だった。額には青く輝く、サファイアが埋め込まれていた。

「まさか……魔鉱石?」

 氷像の狼は三体で、凍ったカルディア兵を川から引き抜くのを邪魔しているように見えた。

「オリバーが作った魔鉱石ね」

 彼の指示なのは間違いないが、なぜ邪魔をしているのかわからない。

 ――昔は兵士に魔鉱石を持たせて操っていたのに、なぜ今回は氷の狼?
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