炎の魔女と氷の皇帝*転生したら弟子と契約結婚をすることになりました*

 背の高い騎士の腕に、狼が勢いよく噛みつく。しかし彼はすぐに腕を振り、払い退けた。大きな剣で氷像の狼を真っ二つに両断した。
 ミーシャは炎の鳥を放ち、魔鉱石を燃やした。そのあとで、助けてくれた騎士が座り込んでいるのに気づき、駆け寄った。

「手を、怪我されたのですか?」

 見ると、信じられないことに固い前腕鎧(バングレース)に無数の穴、歯形が付いていた。

「鎧がなければ、腕を噛み切られていたかもしれません」
「……その声」

 騎士は片手で顔を保護するバイザーを外してくれた。

「イライジャさま? どうしてここに」

 ビアンカと一緒にカルディア兵を説得しているはずの彼がここにいて、驚いた。
 彼はミーシャに向かって跪くと、胸に手を当てた。

「私は、あなたさまの護衛を陛下から任されております。陛下のもとを離れ、お一人で炎の鳥に乗って南下するのを見かけたので、追って参りました」

「魔女の次は、……イライジャ・トレバー近衛騎士団総長?」

 ようすを見ていた中年隊長は、青い顔で後ずさりした。
 イライジャは立ちあがると、周りにいる者に聞こえるように言った。

「令嬢は、グレシャー帝国の皇妃になられるミーシャさまだ。陛下の寵をいただいているのはもう理解しているようだが、釘を刺しておく。手を出せばカルディア兵のように、陛下自らの手で、凍り漬けにされることを覚悟しておけ」

 その場の空気が凍る。隊長と兵士はみな、イライジャとミーシャに平伏した。



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