炎の魔女と氷の皇帝*転生したら弟子と契約結婚をすることになりました*
倒れながら耳に届いたものは、自分を心配する声だった。
 雪の中へ、背中から沈んでいく。

 ぼろぼろで、よれよれだったのに、どこにそんな力を残していたいのか。

 視界が(ひら)けると、自分を庇うように覆い被さったオリバーの背に、氷の狼の牙と爪が食いこむのが見えた。

「炎の鳥!」

 氷の狼の横腹に炎の鳥が体当たりする。狼は吹き飛び、溶けて消えた。

 白い空から白銀の雪が舞い降りてくる。
 自分の上に覆い被さったまま動かないオリバーを、リアムはぎゅっと抱きしめた。彼の背に手をまわすと、ぬるりとした温かいものが触れた。

「オリバー、どうして……!」

疑問が次々と沸き起こった。

「……せめて、オリバー叔父さんと呼べ……」

 オリバーは、リアムを抱きしめかえした。昔のように頭をひと撫ですると、かすれる声で言った。

「おまえを、愛しているから、だ」

 脳裏に浮かんだのは、人質としてフルラへ向かう馬車の中で見た光景だった。
フルラ行きはオリバーがいるから決めたと伝えると、オリバーは照れくさそうに、でも、嬉しそうに笑った。

「ふ、……ざけるな!」 

――土壇場で、庇うなんてずるい!
 リアムはオリバーを自分の上から引き剥がすと、うつ伏せに寝かせた。赤いしみが広がっていく、背中を手で抑えて圧迫する。

「オリバー、生きろ! 死んだら、一生許さない!」
「一生……それは、いいな」

 月明かりのせいでわかる。オリバーから流れ落ちた血で、白い雪が赤く染まっていく。

「リアム……」
「うるさい。しゃべるな、黙ってろ!」
「……泣くなよ。そしたら……褒めてやる」

 ろうそくの火が風でふっと消えるように、オリバーは意識を失った。
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