炎の魔女と氷の皇帝*転生したら弟子と契約結婚をすることになりました*
言い終わったあと、リアムは再びミーシャを見た。そのまま動かない。

「陛下。もういいでしょう? 早く下ろして……」

 こそっと話しかけると、彼は不敵に笑った。

「だめだ。魔女は危険ではないともう少しアピールしよう。どうぞ」
「どうぞって、なに?」
「……鈍いな」

 リアムはわざとらしくため息をつくと、唇の端をあげた。

「俺にお願いをしたいならまず、キスをして。そしたら、この場から立ち去ってやる」

 ミーシャは目を丸めたまま絶句した。

「……アピールは、もう足りています!」
「いや、足りない。それともこのままみんなに見せびらかしたいのか? 俺はそれでもいいが」
「追い打ちかけないで!」

 会場内に白い雪と、炎の鳥からこぼれた火の粉がふわふわと降り続け、きらめいている。

 ミーシャは幻想的な光景に見とれる余裕がなくなった。体温が上がっていく。涸渇している魔力が満ちているのか、それとも……。
 わからない。ただ、彼が本気で言っていることだけはわかった。

「俺は、きみから親愛の証を賜りたい」

 懇願するような瞳を向けられて、心臓がひときわ強く跳ねた。
 手は、身体を支えるためにリアムの両肩に置いている。そっと、彼の襟元を握った。

「……わかりました」

 肘をゆっくりと曲げて、リアムのきれいな顔に近づいていく。せっかくまとめていた髪が乱れて垂れ下がると、カーテンのように自分たち以外の人の視線を遮った。

 朱鷺色の髪のカーテンの内側で、鼻先が触れる距離まで近づいてもリアムの表情は崩れない。自分だけ動揺していて悔しくなった。彼をにらむ。

「キスしたら、下ろしてくださいね?」
「もちろん」
「……こんな、いじわるな人だとは思わなかった」
「冷酷とはよく言われるが、いじわるは初めて言われた」

 リアムの髪は、夜の雪原に浮かぶ、銀色の月の色をしている。さらさらで柔らかいのは昔と変わらない。

 ミーシャは、美しい彼の前髪にそっと、自分の唇を押し当てた。

 冷たい額に触れた瞬間、熱が彼に伝わっていく。
 親愛の証のキスなのに、クレアだったころとは違う感情が、胸の奥から湧いてくる。

「いじわるだけど、あなたは冷酷じゃない。やさしい、氷の皇帝です。あなたのことは私が、……必ず守ります」

 ミーシャは心から、リアムに笑いかけた。
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