元皇女なのはヒミツです!

3 旅の道々

 大陸一の大きさを誇る帝国でも、そこから一歩も出たことがなかったら田舎者と同じじゃない?

 皇女だった頃に親しい令嬢から言われた言葉が胸を突く。
 令嬢曰く、どんなに大国でもどんなに発展した都会に住んでいても、その世界しか知らないなんて田舎の狭い世界で生きているのと変わらないそうだ。そのときは面白いこと言う子だわって笑っていたけど、今なら彼女の言っている意味が少し分かる気がする。

 ……緊張して一人でお店で物を買えない。

 私は今、とっても困っている。
 馬車に揺られて国境近くの街まで来たところで矢庭にとてつもない空腹が襲ってきた。ターニャさんからもらった食料も底を突いてしまったので出店で挽肉の包み焼きを購入しようと思ったのだけど……、

 恥ずかしくて店主に声を掛けられないわ!

 立派な平民になるためにターニャさんから家の外での常識も教え込まれたのだけど、いざ実践となると緊張して身体が動かなくなってしまうのだった。声を上げようとしても、恐怖で掠れてしまう。ならばジェスチャーで示そうと思っても、氷みたいにガチガチに固まった肉体は言うことを聞かないのだった。
 平民ってこんなに難しいことを平然とやっているのね。私は本当になにも知らない田舎者と同じだったわ。帝都で威張っていたのが恥ずかしい!
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