スノーフレークに憧れて

第38話


 ひとしきり汗のかいた龍弥と木村は
 タオルが欠かせなかった。

 運動を終えたのに、
 外を歩いているだけで
 汗が止まらない。

 外の気温が高いということも
 理由の一つだろう。

 あまり運動していない菜穂は
 それほど汗をかかなかった。


 「ファミレスってそこのことだよね?」

 菜穂は、校門を出てすぐのファミレスを指差した。


「そうそう、そこでいいよ。」


「なんで、デートを邪魔するように
 俺も行かないといけないわけ?」


「いいから、気にするなって。
 別にイチャイチャしないよな?」


「あ。」

 木村は指をさす。

 そう言いながらも龍弥は
 菜穂の手を繋いでいる。


「あーーー、わかった。わかった。」


 パッパッパと虫でも振り払うように
 菜穂の手を離した。
 ぬかりない。
 無意識だった。

 菜穂は呆れて何も言えなかった。

「今日は木村の話を聞くんだから、
 何もしない。
 うん、そう。」

 自分に言い聞かせるように言う龍弥。

「まぁ、喧嘩するよりいいけど。
 そういや、最近、2人が喧嘩するの
 少なくなったよね?
 仲良い方がいいのかなぁ。
 でも、俺は複雑だよ…見せつけられて
 いるようで。」

 半分顔が灰色になったような仕草で
 落ち込む木村。
 菜穂は、ごめんなさいと謝る仕草を
 する。
 龍弥はきょとんと言った表情。
 
「そうか? 
 確かにそうかもしれないな。
 わかった。普通に過ごすから。」

 お店のドアが
 カランカランと音が鳴る。


「いらっしゃいませ。
 何名様でしょうか?」


「3人です。」


「空いているお席にどうぞ。」

 と案内される。

 3人は窓際を選んで、
 奥に木村、反対側の席に龍弥、
 その隣に菜穂の順で座る。

「メニュー見て、好きなの言って、
 注文するから。」


 龍弥は立てかけてあったメニュー表を広げた。

 木村と菜穂は適当に無難なところで
 ハンバーグプレートを選んだ。
 龍弥も2人に合わせて同じものを
 頼んだ。

 今回は特にこだわらなかった。


「んで、注文を終えたわけなんだけど、話、してもいい?」

「う、うん。でも、俺が話せることは
 そんなにないよ?」


「え、ちょっと待って、話って何?」

「菜穂、悪い。恥ずかしいかもしんないけど、木村に昨日のこと話すな?」

「え。なんで、木村くんに?」

「犯人探しのためだから。」

「あー、うん。いいけど。」

 複雑な表情で菜穂は返事した。
 木村がズズイと話に入ってくる。

「え?犯人探しってどういうこと?
 菜穂ちゃん、なんかあったの?」


「木村。あのな、
 昨日、菜穂が誰かわからない男に
 襲われたんだ。
 下校中に突然、
 狙われたっていうんだよ。
 その証拠に鎖骨に傷があるんだ。
 ごめん、菜穂、上の方でいいから
 見せて。首のとこ。」


「えー、首のところならいいけど…。」


 菜穂は恥ずかしそうに木村にそっと見せた。

「あ、本当だ。大丈夫??
 大変だったね。
 犯人はナイフ持ってたってこと?
 え、警察には届けなかったの?」


「…警察には届けてないよ。」


「菜穂には言うには、
 俺のことを恨んでいるやつ
 なんだってよ。
 あいつさえいなければって
 言ってたらしく
 彼女だって理由で菜穂を狙った
 みたいなんだ。」

「……思い出す…。」
 
 菜穂は、当時の状況を
 思い出して怖くなった。

 龍弥はバックからイヤホンを
 取り出し、Bluetoothで接続して
 菜穂の耳に取り付けた。
 
 龍弥のおすすめセレクションで
 音楽が流れ始める。

 今まで龍弥の好きな曲を聴いたことがなかった菜穂は嬉しかった。

「イヤホンして音楽聴いてたら
 大丈夫だろう。」

「白狼くん、それでなんで石崎くんが
 関係してるの?」


「俺、中学の時、サッカーの試合で
 池崎と戦ったことあるんだよ。
 お互いに因縁の相手って感じで。
 だから、顔も知っているし、
 今回同じ高校になってるだろう?
 多分、今のサッカー部での
 何かがあって俺が入部することで
 何か不都合なことあったのかなと
 思ってさ。」


「……大アリなんだよ、白狼くん。
 本当は顧問の熊谷先生に絶対に
 外部に漏らすなって言われてたから
 言えなかったんだけど
 菜穂ちゃんのことで
 必要だと思うから言うんだけどさ。
 俺から聞いたって
 絶対言わないでくれよ?」


「わかったよ。言わないから。」


「サッカー部で
 陰湿なイジメがあったんだよ。
 
 標的はもちろん、石崎くんなんだ。
 理由は、フォワードってことで
 点数を取るポジションなんだけど、
 石崎くんはそのポジションがいいって
 割にガツガツ行けないし、
 1年なのに3年の先輩には
 逆らうしで、部員は全員
 嫌気がさして空気が重かったんだ。
 
 俺は時々生徒会で抜けることが
 多かったから
 現場に居合わせてなかったんだけど、  
 結構ひどかったみたいなんだ。
 
 無視は日常茶飯事だし、
 池崎くんのユニホームやシューズは
 無くなるし、顧問の先生もやる気がな     
 いなら辞めろって何回も言っても言う 
 こと聞かなくて、遂には先生がポロッと言っちゃったわけなんだよ。
 
 『1年なら、白狼龍弥スカウトしてたところだからあいつならフォワードできるそうだし、お前いなくても全然大丈夫だから心配すんな。』
 
 って励ましのつもりで言ったんだろうけど、池崎くんには耐えられなかったよね、きっと。
 
 その後、部員たちに対して殴る蹴るの暴行事件が起きてさ。
 
 俺はその場に居合わせて止めたんだけど、無理だったな。止めきれなかった。

 警察には連絡しなかったんだけど、
 先生は外部に漏らすなっていう話で
 終わって、もちろん石崎くんは部活を辞めさせられて、体裁上は、石崎くんは入院することになったって白狼くんを誘うときの理由ね。

 本当は話しちゃいけない内容だったんだけど、その話からすると菜穂ちゃんの事件になってもおかしくないよね。」


「そうだったんだ。池崎くん、
 かわいそうだね。」

 菜穂は襲われた側なのに、
 かわいそうと池崎の感情移入して
 しまっている。

「菜穂、その話、聞いて
 かわいそうって言えるなぁ。
 わかるの?石崎のこと。」


「ううん。会ったことないし、
 わからないけど、いじめられてたとか先生にいなくても大丈夫って言われたら
誰だって落ち込むよね。」


「俺も生徒会とかで抜けること多かったから助けられなくて、むしろ俺がいないときにいじめが発生してたみたいで、逆にそれもなんでって思うんだけどさ。」


「それって、木村が生徒会入ってるからすぐ先生に伝わると思ってやらなかったんじゃねえの?守られているねぇ。
よ、次期生徒会長!」


「白狼くん、それ、言わないで。
 先輩たちに聞かれると睨まれるから。    
 もちろん、時期が来たら、
 立候補する予定だけどさ。」


「頼もしいね。
 学校の校則を変えてほしいものだよ。
 てか、やっぱり、池崎に話に行きたいからさ、自宅の住所教えてよ。」


「え、白狼くん、まさか殴りこみに行くわけじゃないよね?やめてくれよ?」


「んなわけないだろ?
 蹴りくらいは入れてくるけどさ。
 サッカー部だけに。
 ってか、俺も池崎の気持ち少しだけ
 わかるんだよね。
 中学の時、俺も暴行された側
 だったから。先輩たちから。」


「……そうだったんだ。白狼くんってやっぱ波乱万丈な人生を若いうちから送ってるんだね。」

「ちょ、木村、何をどう聞いて波乱万丈というわけ?まだ暴行事件のことしか木村に言ってないぞ?」


「いや、だって、いろはちゃんのことだって、血のつながらないとか、いろいろ家庭環境が大変なんでしょう?」


「なんで、その話知ってんだよ?」


「いや、その、噂で聞いて。」


「あぁ、そう。まぁ大体合ってるけど、確かに波乱万丈だね。俺も、木村に菜穂取られそうになったりならなかったり…。」


「それは言わないでもらえる?
 池崎くんの住所言うの
 辞めようかな。」


「あ、わかった。今のなし。
 もう言わないから。
 教えてください。」

 ぺこりと頭をさげる龍弥。
 
「しかたないなぁ。
 住所って言っても地図を
 見せるんだけどね。
 俺も心配で池崎くんの家に行ったこと
 あるんだよ。」

 木村はバックからノートをやぶり、
 学校から池崎の家までの地図を
 書き始めた。


「大体この辺なんだ。池崎くんのウチって大家族で本人がいるかどうか分かりにくいかも。何か家出して帰ってこない時もあるのよってお母さんが笑いながら言ってて、心配してるんのかなって思ったけど、この家庭、大丈夫かなって心配なるよね。」


 池崎がそうなったのは家庭環境にも影響していたかもしれない。


「わかった。サンキュー。
 言ってみるわ。菜穂は行ける?」


「怖いけど、犯人かどうか知りたいし。
 疑いたくないけど。
 別に警察に突き出すわけ
 じゃないんだよね?」

「菜穂がそうしたいんだったら、
 連れて行けばいいじゃん。」


「それはしないけど…。」


「俺は、警察に突き出すとかそういうことをしたいわけじゃないから。
 行くのが大丈夫なら一緒に来て。」

「うん。わかった。」

「ごめんね、俺も一緒に行きたいところだけど、これから塾なんだ。」

 木村は残念そうに言う。

「良いって大丈夫だから。
 それより、ご飯食べるの
 忘れているよ。
 もう、頼んでたメニュー来てるし、
 気づかなかった。」


「あ、ごめん。私、先に食べてた。
 お腹空いてて。」


「菜穂、食べるの早いし、
 もう、半分食べ終わってるじゃん。」

 木村はそのやりとりを見て、
 クスッと笑った。


「2人をみると
 夫婦漫才見てるみたいだわ。」


「夫婦じゃないって。」


「あ、ごめん。面白かったから。」


 龍弥と菜穂は頬を少し赤くして、
 ナイフとフォークで
 ハンバーグプレートを黙々と
 食べ始めた。
 
 
 木村もクスッと笑いながら
 食べている。

 だんだんとファミレスもお客さんで
 溢れてきた。
 
 
 会社のランチタイムでお客さんが
 押し寄せてきたようだ。


 ざわざわと賑わっていた。




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