両手でも抱えきれぬ愛で贖えるものなら
イタリアンレストランでの夕飯が終わると、もう解散時間だ。

及川くんはマンションまで送ってくれた。

「今日は遠くまで付き合ってくれてありがとう」

優しく微笑んでそう言われ、

「こちらこそ、楽しかった」

「じゃあ、またなるべく近いうちに、せめて食事だけでも」

「うん。またね」

遠ざかる車に元気よく手を振った。

いつも、別れ際は少し淋しいけれど、私も一人の時間を楽しめるタイプだし、及川くんとは信頼関係があるから、何か疑ったりすることもなく、淋しいのなんのと泣きつくようなこともしない。

ずっと、こんな関係でよかったのだ。

間違いなく、幸せと思えていたのだから。

それにも関わらず、なぜ私は…。
< 10 / 42 >

この作品をシェア

pagetop