両手でも抱えきれぬ愛で贖えるものなら
もうひとつの出会い
今日のピアノ教室のレッスンが終わり、そのあとはレストランでの演奏だ。

演奏が終わると、お客さんたちはパラパラと拍手はしてくれるけれど、正直、私の演奏は、ほぼ単なるBGMだということを、自分でも判っている。

しかし、BGM同然だとしても、人々の楽しい時間に、ほんの少しでも彩りを添えられたら、それで満足だ。

ピアノから離れる時、30才ぐらいの、ある男と目が合った。

彼は、いつも一人で来ては、やけに私を凝視してくるので、何だか嫌な感じだ。

とても顔立ちが整っていて、上背もあり、エリートっぽい雰囲気も漂わせている。

そんな人が何故、私をジロジロ見てくるのだろう。

私は、気にしないでもう帰ろうかと思ったのだが、店を出てすぐ、

「ピアニストのお姉さん」

例の男に声をかけられた。

ぎこちなく微笑み、軽く会釈して立ち去ろうとしたが、

「ちょっと待ってよ」
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