両手でも抱えきれぬ愛で贖えるものなら
間違った選択
誘惑ね…。

もう夜も遅いが、少しだけアパートに顔を出してみようか。

幸い、最寄り駅は今も同じだから、一瞬、顔だけ見て帰るぐらいなら…。

重い足取りで辿り着いた、及川くんのアパートのブザーを鳴らす。

「あれ?三井さん。どうしたの?」

こんな風に、いきなり訪ねてきたのは初めてなので、困らせてしまったかもしれない。

それに、あの男の言葉で、不安にもなっている。

「ごめんね、遅くに。少し顔見ていこうと思っただけだから、もう帰るね」

「えっ、せっかくだから、寄っていってよ」

「だって、明日の朝、早いでしょう?」

「いいよ、別に」
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