猫族の底辺調香師ですが 極悪竜王子に拾われました。
「植物園に王族以外が勝手に侵入した痕跡があるとかで鍵がかけられるようになったの。私は今その鍵をメイド長から預かっているんだけど……」
「……ランチ楽しみだわ。リリィ」

 チャリン、と鍵を指にかけてまわすリリィに完敗したニーナは缶詰になっていた調香室を久々に出た気がした。


 久々に訪れた城内の植物園は不思議な香りが充満していた。
以前、王太子から逃げて迷い込んだときは木や花が丁寧に管理されていて様々な香りが入り交じっていたから、この変化に思わず鼻をひくひくと動かしてしまう。
植物園の隅に布を敷いて、その上に並べた軽食を頬張るリリィがさらに頬を膨らまして困り顔になる。

「ニーナ、スープ冷めちゃうよっ」
「あっ、ごめんね……新しい花ってあれかな?」
「むぐっ、そうそう。あの真っ赤な花! 薔薇に似てるけど……ちょっと変わってるよね」

リリィに言われて形だけスープをひと口飲んでみるも、味を楽しむ余裕はない。ニーナの意識はこの独特な香りを放っている大きな花に向けられていた。

(前に来た時は、あんな花なかったと思うけど……)

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