猫族の底辺調香師ですが 極悪竜王子に拾われました。
 ――確かに、どこかで見たことがあるような気はするけれど……ニーナは否定した。

「……そうか。……ニーナ、だったな」

 こほんっと咳払いをした男がニーナに頭を下げた。想像もしていない展開に一瞬、状況が飲み込めなくなる。

「先ほどは悪かった……君を物扱いするような言い方をした」

 ――うそ、でしょ? な、なに?

「ニーナ。どうか俺の調香師になってほしい」

 男は、動揺して固まっているニーナの手を優しくとると、長身を屈めて手の甲に唇を落とした。
 拍子もない依頼を受け、衝撃に言葉を失う。
神に祈るような美しい所作と、必死さが顰められた眉と蒼い瞳から伝わってくる。
 自惚れかも知れないけれど、本心から求められている。そんな気がした。

 ――な、なんで? なにが起こっているの……? 

 状況を飲み込めないニーナを、いつのまにか集まった数人の使用人が取り囲みあっという間に専用の部屋を用意されてしまった。

 ニーナがようやく言葉を発したのは部屋でロルフと二人きりになってからだった。
 それも、ベッドの上で。

「ちょ、ちょっと待ってください……! なぜ急にこんな……っ」

 動揺が隠せないニーナに対して目の前の男は相変わらず凛とした佇まいだ。

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