没落令嬢のおかしな運命~餌付けしたら溺愛されるなんて聞いてません!~


 ◇

 ジャクリーン様がケーキと焼き菓子を買って帰ってくれたお陰で、開店初日は営業終了時間よりも早くにお店を閉めることになった。
 ラナが入り口のプレートを営業中から閉店中へとひっくり返すと、扉上のロールカーテンをしっかりと床まで下ろす。
 私は店じまいするラナの様子を横目で確認してから目の前に立っているネル君へと視線を向ける。
 ネル君は俯きがちにして目を泳がせていた。

 私は怖がらせないようにできるだけ優しい声色で質問をする。
「ネル君はどうして私がここでお店をしているって知っているのかしら?」
「一週間前にたまたまこの通りを通ったら、見覚えのある馬車が止まっていて……。それがお嬢様のところの馬車だってすぐに分かったの。建物の影からこっそり様子を窺っていたらお嬢様がこのお店から出てきてパティスリーを始めるってお話も聞こえてきたから……。僕、どうしてもあの時のお礼がしたかったし、もう一度会いたくて来てしまったんです。だけどお店の中に入ったらお嬢様のお菓子を侮辱する声が聞こえてきて……気づいたら行動に移ってました。勝手な真似をして本当にごめんなさい」
 悄然と項垂れるネル君を宥めるように、私は両肩を優しく掴む。

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