愛した人は剣奴だったから
「こういう紋様よ。テラスって異国の宝石には詳しいわよね」
オスベルの四割が奴隷、五割が自由民、一割が貴族や商人や神官という国である。
富裕層の屋敷の使用人や農園の働き手は奴隷を使うことが多いのだ。
テラスも、元はアデリアの母の奴隷だったが何年も前に解放されている。
いわゆる『解放奴隷』となってからも、アデリアの母に秘書として仕えてきた。そして、母が死んだ後も、彼女は自分の意志でここに残って働いている。
最近、生え際に白髪何本か出てきたテラスが青白く痩せた頬に手を添えたまま言う。
「分かりましたわ。この蔦模様はノラカンナの貴族のものですよ。懐かしいですわ。ノラカンナの美しい七人の王子達を思い出しますわ。彼等は、特製の紋章入りの豪華な耳飾りをつけておりましたよ」
十三年前に消滅したユーラカスの宮廷で女官として働いていたので詳しいのだ。
ザトラ三国とはは、ユーラス、マーニカ、ノラカンナのことである。この三国は砂漠の大国であるゴビに侵略されて崩壊している。
「耳飾りの柄は家紋を表します。おそらく、その若者は、かつて王族の警護をしていた貴族です」
貴族と聞いたアデリアは無邪気に顔を綻ばせていく。
何かを深く考え込んでいるのか、テラスの切れ長の瞳が薄っすらと引き絞られていく。
「定期的に、その者は中央市場に来ている可能性もありますね。少しお待ち下さいませ。オスベルの奴隷は年齢などが役所の財産目録に記されていますから。調べれば分かるのではないかと思います」
荒唐無稽な頼み事だというのにテラスも乗り気になっているのである。
「お嬢様か望むのなら、奴隷を誰かの養子にして、お嬢様と縁組させるという手もありますわね」
奴隷と貴族は結婚出来ないのて苦肉の策をとることも視野に入れているようである。テラスは世間体など二の次だ。どうしても、アデリアに男子を産んでもらいたいのだろう。
アデリアは期待を込めながら依頼したという訳なのだ。
(だけど、無理に呼び寄せたのがいけなかったのね)
こんなことになってしまい落ち込んでいた。ロマンチックな恋がしたいと、昔から夢見てきた。昔、母が教えてくれた。
『お父様とは夏の暑い日にジクの宮殿の中庭で出会ったの。当時のお父様はオスベルの下位の将校でした。ジクへと遣わされた元老院議員のポンペイウス様の警護をしていたのです。結婚を申し込まれた時は嬉しかったわ。一人ぼっちで異国に嫁いだけれど寂しくなかったの。あなたも素敵な人と結婚するのですよ』
大好きな母が亡くなったのは冬だった。アデリアは十歳になったばかりだった。父は遠くにある属州に赴任しており留守だった。
『お嬢様……。わたくしが、一生、あなた様のおそばにおります』
泣き続けているとテラスが抱き締めてくれた。
オスベルの四割が奴隷、五割が自由民、一割が貴族や商人や神官という国である。
富裕層の屋敷の使用人や農園の働き手は奴隷を使うことが多いのだ。
テラスも、元はアデリアの母の奴隷だったが何年も前に解放されている。
いわゆる『解放奴隷』となってからも、アデリアの母に秘書として仕えてきた。そして、母が死んだ後も、彼女は自分の意志でここに残って働いている。
最近、生え際に白髪何本か出てきたテラスが青白く痩せた頬に手を添えたまま言う。
「分かりましたわ。この蔦模様はノラカンナの貴族のものですよ。懐かしいですわ。ノラカンナの美しい七人の王子達を思い出しますわ。彼等は、特製の紋章入りの豪華な耳飾りをつけておりましたよ」
十三年前に消滅したユーラカスの宮廷で女官として働いていたので詳しいのだ。
ザトラ三国とはは、ユーラス、マーニカ、ノラカンナのことである。この三国は砂漠の大国であるゴビに侵略されて崩壊している。
「耳飾りの柄は家紋を表します。おそらく、その若者は、かつて王族の警護をしていた貴族です」
貴族と聞いたアデリアは無邪気に顔を綻ばせていく。
何かを深く考え込んでいるのか、テラスの切れ長の瞳が薄っすらと引き絞られていく。
「定期的に、その者は中央市場に来ている可能性もありますね。少しお待ち下さいませ。オスベルの奴隷は年齢などが役所の財産目録に記されていますから。調べれば分かるのではないかと思います」
荒唐無稽な頼み事だというのにテラスも乗り気になっているのである。
「お嬢様か望むのなら、奴隷を誰かの養子にして、お嬢様と縁組させるという手もありますわね」
奴隷と貴族は結婚出来ないのて苦肉の策をとることも視野に入れているようである。テラスは世間体など二の次だ。どうしても、アデリアに男子を産んでもらいたいのだろう。
アデリアは期待を込めながら依頼したという訳なのだ。
(だけど、無理に呼び寄せたのがいけなかったのね)
こんなことになってしまい落ち込んでいた。ロマンチックな恋がしたいと、昔から夢見てきた。昔、母が教えてくれた。
『お父様とは夏の暑い日にジクの宮殿の中庭で出会ったの。当時のお父様はオスベルの下位の将校でした。ジクへと遣わされた元老院議員のポンペイウス様の警護をしていたのです。結婚を申し込まれた時は嬉しかったわ。一人ぼっちで異国に嫁いだけれど寂しくなかったの。あなたも素敵な人と結婚するのですよ』
大好きな母が亡くなったのは冬だった。アデリアは十歳になったばかりだった。父は遠くにある属州に赴任しており留守だった。
『お嬢様……。わたくしが、一生、あなた様のおそばにおります』
泣き続けているとテラスが抱き締めてくれた。