愛した人は剣奴だったから
『テラス……。もしかして、父様、再婚するのかしら』

『それはないと思います』

『どうして?』

『旦那様は、奥様だけを愛しておられますからね……』

 あの日、継母が現れないと分かってホッとした。御伽噺の主人公のように継母に苛められるのは嫌だった。

 テラスは、母が死ぬまでは母の片腕として母の事業を補佐していたのだが、家令として家の中のいっさいのことを管理するようになった。彼女は多忙だった。

 それでも、母のお墓参りの時にはテラスは一緒に付き添ってくれた。母の墓参りの帰りにアデリアは見たのだ。北風が吹きすさんでいた。青果市場のゴミ捨て場には数人の孤児達がいた。

『テラス、あの子達は何なの?』

『親を亡くして路頭に迷っているのでしょうね』

 そう説明した後で、哀しそうに頬を歪めた。

『見た目が綺麗な子供ならば奴隷商人が連れ去って、あの子達を食べさせてくれますが、あそこにいる子は、見た目がよくないので奴隷商人さえも見捨てたようですね』

 その男の子は足が悪いのか歩きにくそうにしている。

 そういう子は家事や農業の奴隷として労働させる訳にもいかない。

 女の子は目が見えにくいようだった。手探りで地べたに落ちているトマトを拾って嬉しそうにしている。泥のついた根菜を齧っている子もいた。あんなものでも食べられたら幸せなのだとテラスが教えてくれた。それで何とかしたいと思い、軒下や橋の下で凍え死ぬ子を救う寺院に寄付したのが慈善活動のきっかけだった。

 良い事をすれば亡くなった人の魂も救われるという言い伝えがある。だから、父も、アデリアの慈善活動に賛同してお金を渡してくれていたのだが、父親の死後は、後見人が雇った管財人が無駄な支出を嫌がるようになってしまうのだ。

 ちなみに、テラスは屋敷に仕えながらも副業として貴金属の輸入業を営んでいる。仕入れた宝石を知り合いの商店に卸して儲けているのだ。

 アデリアはテラスからお金を借りている。その額は、年々、膨らんでいく。

 アデリアが家畜を継ぐという形で返済しなければ、テラスの老後の資産が目減りしたままである。テラスが危機感を抱くのも当然なのだ。

 そんなふうに甘え続けていることに罪悪感を抱きながらもテラスに告げた。

「あ、あのね、レンシーを農園に返却して欲しいの。彼、威張ってばかりの人だったの。もう気が済んだわ。あたしは彼とそういう関係にはならないと分かったの」

 こうなったら、シードの事など嫌いなフリをして彼を夜伽の義務から解放してあげるしかない。

 すると、テラスは細い眉を軋ませながら呟いた。

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