愛した人は剣奴だったから
『今夜は、もしかして眠れないかもしれませんわ。後ほど、あなた様に餞別の品を届けさせます』
こちらの胸が痛くなるほどの優しい表情でこう言ったのである。
『アデリア様と出会えた事に、このテラスは感謝しております。一度は死ぬつもりで毒を飲んだけれども死に切れず、奴隷商人に囚われてどん底にいたところを、あなたに救われたのでございます』
救われたのはアデリアの方だ。テラスと離れるのかと思うと寂しくて泣きそうになる。
そして、こんなふうにジャスミンが咲き誇る夜はレンシーを思い出す。
あの時、ジクではなくもっと別の土地に逃げ出していれば。そしたら、レンシーと一緒にいられたのかもしれない。でも、そんなことしたら奥さんが可哀想。そんな非道なことは出来ない。
「今頃、レンシーはちゃんと元気に暮らしているのかしら?」
ジクとの熾烈な戦争に勝利したならば、妻と共にノラカンナに戻ることになるのだろう。
「ああ、駄目! 奥さんがいるのよ! それなのに、あたしをこんなに夢中にさせるなんて。レンシーの馬鹿、馬鹿! 死んじゃえ! 今すぐ死んじゃえーーー! もうキライ! 顔も見たくないんだから!」
未練を断ち切るようにして叫んだものの、言葉とは裏腹にウルウルと目を潤ませながら祈っていたのである。ギュッと手を合わせて目を瞑る。
「レンシー、やっぱり、死なないで」
その時だった。いきなり、ダンッと扉が開いたのだ。背後から懐かしい声がしたのだ。フッと、芳しい香りと共に彼は現れた。
「言っておくがオレは死なないぞ」
たちまち部屋の空気が変わっていった。胸に甘酸っぱいものがこみあげる。
「レンシー?」
予想外の展開に困惑していた。まったく訳が分からない。アデリアは長椅子から起き上がり、口をパクパクさせて尋ねていく。
「どうやって入ってきたの? 来るなんて聞いてない」
会いたいけれど会ってはいけない。ああ、心の防波堤が今にも決壊してしまいそうになる。
「やだやだ! 早く帰ってよ。もうあたしの前に現れないで。あなたを見ると苦しいだけだから!」
一体、何をしに来たのだろう。
彼の装束は母国ノラカンナのものだった。襟ぐりや裾が美しい金糸で刺繍されている。異国風の長袖の丈の短い上着と細身のズボン。上等な革で作った靴、それに、立派な金色の馬を模った腕輪を身につけている。まるで別人のようだった。
サラサラとした黒髪が肩のあたりまで伸びている。額には王族の印である銀の額飾りが巻かれている。
そして、耳飾りが以前のものよりも豪華なものになっている。
今まで以上に愛おしさを強く感じてはいたが、抗うように彼から顔を逸らしながら告げていく。
「あ、あたしは、もう、あなたと会ってはいけないのよ。だって、あたし、まだ、あなたのことが好きなんだもの!」
こちらの胸が痛くなるほどの優しい表情でこう言ったのである。
『アデリア様と出会えた事に、このテラスは感謝しております。一度は死ぬつもりで毒を飲んだけれども死に切れず、奴隷商人に囚われてどん底にいたところを、あなたに救われたのでございます』
救われたのはアデリアの方だ。テラスと離れるのかと思うと寂しくて泣きそうになる。
そして、こんなふうにジャスミンが咲き誇る夜はレンシーを思い出す。
あの時、ジクではなくもっと別の土地に逃げ出していれば。そしたら、レンシーと一緒にいられたのかもしれない。でも、そんなことしたら奥さんが可哀想。そんな非道なことは出来ない。
「今頃、レンシーはちゃんと元気に暮らしているのかしら?」
ジクとの熾烈な戦争に勝利したならば、妻と共にノラカンナに戻ることになるのだろう。
「ああ、駄目! 奥さんがいるのよ! それなのに、あたしをこんなに夢中にさせるなんて。レンシーの馬鹿、馬鹿! 死んじゃえ! 今すぐ死んじゃえーーー! もうキライ! 顔も見たくないんだから!」
未練を断ち切るようにして叫んだものの、言葉とは裏腹にウルウルと目を潤ませながら祈っていたのである。ギュッと手を合わせて目を瞑る。
「レンシー、やっぱり、死なないで」
その時だった。いきなり、ダンッと扉が開いたのだ。背後から懐かしい声がしたのだ。フッと、芳しい香りと共に彼は現れた。
「言っておくがオレは死なないぞ」
たちまち部屋の空気が変わっていった。胸に甘酸っぱいものがこみあげる。
「レンシー?」
予想外の展開に困惑していた。まったく訳が分からない。アデリアは長椅子から起き上がり、口をパクパクさせて尋ねていく。
「どうやって入ってきたの? 来るなんて聞いてない」
会いたいけれど会ってはいけない。ああ、心の防波堤が今にも決壊してしまいそうになる。
「やだやだ! 早く帰ってよ。もうあたしの前に現れないで。あなたを見ると苦しいだけだから!」
一体、何をしに来たのだろう。
彼の装束は母国ノラカンナのものだった。襟ぐりや裾が美しい金糸で刺繍されている。異国風の長袖の丈の短い上着と細身のズボン。上等な革で作った靴、それに、立派な金色の馬を模った腕輪を身につけている。まるで別人のようだった。
サラサラとした黒髪が肩のあたりまで伸びている。額には王族の印である銀の額飾りが巻かれている。
そして、耳飾りが以前のものよりも豪華なものになっている。
今まで以上に愛おしさを強く感じてはいたが、抗うように彼から顔を逸らしながら告げていく。
「あ、あたしは、もう、あなたと会ってはいけないのよ。だって、あたし、まだ、あなたのことが好きなんだもの!」